第2回九州アラブチャンピオン観戦報告

 2003.2.2、佐賀、2000m

はじめに
九州地区交流の古馬重賞、九州アラブチャンピオン。3月2日の西日本アラブ大賞典に向けて、九州勢にとっては前哨戦となろうレースである。このレースの出自については、昨年同レースの観戦記、その冒頭に記したのでここでは重ねて書かないが、現行のレース名、施行時期・条件となって、今年で2回目となる。昨年8月のアラブ大賞典(荒尾)以来の九州交流古馬重賞であり、また、佐賀施行の古馬重賞としては、昨年5月の九州アラブ王冠賞以来となる。

出走メンバーについて
その出走馬は内枠より以下の10頭。()内は、騎手、性齢、斤量。
ミスターナタリー(北村、牡6、56k)、シュメイヒーロー(真島、牡6、56k)、トチノグレイス(山下、牡7、56k)、ワタリエリート(安楽、牝5、55k)、ルビーノヒミツ(川野、牝6、55k)、ヤマノキング(山口、牡6、56k)、コウザンシンオー(西村、牡5、56k、荒尾)、キングダイオー(鮫島、牡6、56k)、ワタリキングス(永尾、牡6、56k)、ホーエイハンター(権藤、牡5、56k)
別定重量戦とのことだが、一見牡馬56k牝馬55kの単純なハンデ。

昨年の九州アラブグランプリとアラブ大賞典を制し、佐賀トップの実力を誇るマノノトップガンは、アラブ大賞典以降実戦から遠ざかっている。また、益田の廃止に伴って昨秋佐賀に転入し、既存のオープン勢を上回る走りを見せたノアも、当地で4戦(2勝3着2回)したのみで、結局福山に再移籍した模様。この2頭は佐賀オープン界の二巨頭たると思われただけに、ここにその姿がないのは残念至極。また、前年このレースを人気薄で勝ったキングタイムリーは、その後もオープンの主力として活躍しており、今回も登録はあったのだが、不出走である。
上記出走馬の年齢を見ても判るように、現在の佐賀古馬オープン界は6歳馬が中心勢力。彼らはここ1年半くらい、ずっと変わらず一線級を張り続けている。尤も、相変わらず「どんぐりの背比べ」で、どれかが突き抜けることにはならぬのだが。他方一つ年下の5歳世代は、ニシケンシーザー('01年荒尾記念の勝者)やオーサカスズメ('01年サマーカップの勝者)やハカタカッサイ('00はがくれ賞の勝者)といった、世代の有力馬の相当数が福山に転出してしまい、層が薄めの感は否めない。ホーエイハンター1頭が気を吐いている感じ。
荒尾から1頭のみというのは、交流戦としては寂しいところだが、それがコウザンシンオーであるのでまあ納得。現在彼の地断然のトップで地元では敵無し。九州交流古馬重賞奪取という当面の目標を遂げるべく、敵地に乗り込んで来た。

当日の概況
当日早朝新幹線にて九州へ。現地には11時半頃に到着。天気は曇り時々晴れといったところ。空の大部分を雲が覆って、所々それが切れて時々日が差す。初めはそれほど寒さを感じなかったが、午後になり翳る時間が長くなると、やっぱり冷え込んでくる。風は強い。九州とはいえ、この時季の福岡や佐賀が寒いということは経験上身に染みているので、これも覚悟されたこと。
馬場状態は良。砂はかなり浅そう。内ラチ沿い1m半くらいはレース中馬が全く通らず、インベタ走行の馬でも一分どころ半がそのライン。
レース展開としては、逃げ・先行有利のよう。行った行ったで決着するレースもかなりある。強引に逃げを打った馬が案の定沈没したレースもあったが、これは参考外だろう。

メインレースのパドック周回を前に、装鞍所の様子を3号馬さんと眺める。手前の馬房が邪魔で腹下と脚しか見えないが、明るい栗毛で脚に黄色のバンテージを巻いた馬が離れて立っている。「あれ絶対シンオーやわ。」と言い合っていると、チラッとトレードマークの赤いシャドーロールが見えて、大正解。そのコウザンシンオー、殆どの時間を馬房に入らず外の広場で過ごしていた。やがて、シュメイヒーローとトチノグレイスも馬房を出て曳き運動。

パドックから発走まで
そしてパドックタイムとなる。この直前から、太陽を遮っていた雲が切れて辺りが明るくなる。
1番ミスターナタリー。張りは充分で締まった馬体。毛艶も上々。胴が厚くて四角い体型。この馬の常で歩様はガチガチに硬いが、脚の振り下ろしは力強い。以前に比してガチャガチャせずじんわり回っている。前走前開催のオープン川内川特別を4着。
2番シュメイヒーロー。何ともいい毛艶で、皮膚も薄そう。実入りいい堂々たる馬体。「ホントにこの馬はいつも見た目いいですよねぇ。もう騙されませんよ。」とは隣の3号馬さん。うつむいて気配はじんわり、覇気なく見えるほど。前走前々開催のオープン緑川特別を7着。これが約半年の休養明け2戦目。
3番トチノグレイス。以前目にした時に比して、毛艶もいいし皮膚が薄そう。馬体重437kと目方はそれほどない馬だが、今日は大きく見え、実入りもよさそう、かつスカッとしている。前走川内川特別7着。「5月にしか走らない馬」であるからして。
4番ワタリエリート。腹回りに冬毛が出ている。トモの踏み込みも浅くて弱め。気配平凡。上山→福山→上山と転籍し、昨年の上山開催終了に伴い佐賀へ。当地オープンで2戦していずれも8着。この格付けは家賃が高い感が否めない。因みにダイニアキフジの年子の全姉である。
5番ルビーノヒミツ。これも冬毛ボーボー。気配はやや煩い。8走前から3走前まで6連勝したが(休養前の昨年初頭のB1B2戦を含めれば7連勝)これはA3格付け。A1待遇になった前々走前走は9着6着と、ちょっとオープンには足りていない感じ。
6番ヤマノキング。馬体張りも毛艶も文句なし。トモの踏み込みも力強い。これ、ホンマに馬体最高。ただ周回は終始煩く鶴首になって。お客さんの側を通ると顔を内側にひん向けて、写真撮ろうとする3号馬さんやワシにシャッターチャンスをくれない。前走川内川特別3着。中距離のA1戦ではなかなか勝ち星が回ってこないが、逃げて確実に上位入線している。
7番がコウザンシンオー。毛艶はソコソコだがこれは前走ファン選抜アラブチャンピオン時と同様。若干馬体は緩めかも。しかし伸びやかな好馬体。「以前に比べて腹回りとか大きくなりましたよね。」と3号馬さん。ワシはケツの逞しさにそれを感じる。パドックの大外を悠々周回。前走地元のファン選抜アラチャンを圧勝。目下5連勝中。
8番がキングダイオー。毛艶は上々。馬体重499kは前走比-6k、絞れた方が走ると思われる馬なのでこれは好感。値通りスッキリ作ってきた感じで、皮膚も薄そう。トモの力感は割と平凡。意外にじんわり周回している。以前はリップチェーンだったが、今日はハートハミを咬まされている。前走川内川特別を勝ってここへ。前々走緑川特別は競走除外だが、これはレース前に放馬でのこと。
9番ワタリキングス。青毛の真っ黒な馬体なので毛艶は一見いい。じんわり大人しく周回。歩幅は浅く、内々をとぼとぼと回っている。前走川内川特別5着。
10番ホーエイハンター。胴の長さがひと目で判る、また背も高い。懐の深い体型とでも言おうか、とにかくゆったり見せる。歩みは力強い。ちょっと腹回りの毛あしは伸びている。初めて目にする馬だが、まずまずの好印象。前走川内川特別2着、前々走緑川特別を勝利。
騎乗命令が掛かる。ちょうど目の前にコウザンシンオーが止まる。そして駆け寄る西村騎手。「エイキチぃ!」と声援したかったが、浮きそうなのでやめた。ここで特記すべきはヤマノキング。山口騎手が跨ると、煩い気配から一転、じわっと集中した風情になった。

本馬場入場から返し馬。ルビーノヒミツとヤマノキングは入場口から左折して一角方向に。それ以外はスタンド前へ。シュメイヒーローがやや遅れて登場。トチノグレイスは入場行進から反転して一角方向に駆け出す際、暫し膠着。ヤマノキングが実にキビキビとした走りで回ってくる。コウザンシンオーは大きなフットワークで力強くキャンター。ホーエイハンターはキャンターもゆったりと。ミスターナタリーが鶴首気味で手綱を抑えられ、グッとなってキャンターするのは以前と同じ。シュメイヒーローはパドックでの大人しさと打って変わって伸びやかに。トチノグレイスはダクでホームを通過。最後にキングダイオーが、ピッチの利いた強めの駆けりで。

入場時、「どの馬が良く見えました?」と、ふささんが問われるので、3号馬さんとワシ、ハモって「ヤマノキング!」と。「同じだ。でもこの馬、A1上がる前の短距離戦じゃあ強かったけど、距離延びていい感じしてないでしょ?」と。
予想。コウザンシンオーとキングダイオーが二強との下馬評だが、ワシもそれには異存はない。今回この2頭、7枠同枠なので、ワシは枠複で。2頭甲乙つけ難いので馬単は買わず。7−7のゾロ目が本線で厚く。加えて見た目絶好のヤマノキングと、ホーエイハンター、ミスターナタリーの枠に、以上4点買い。ヤマノキングとホーエイハンターは共に逃げ・先行馬だが、前半競り合いにはならないと思う。「ホーエイハンターはすんなり控えるでしょう。」と3号馬さん。気になるのはやっぱりシンオー。「マノノトップガンいないんだからねえ、今回の相手で勝ち負けにならないと問題でしょう。」とは、先々週の園田・福山交流特別競走に続き、今日もパドックタイム直前に、押っ取り刀で現れた栃さん。

ヤマノキング(42KB)
ヤマノキング、返し馬
シャッターチャンスイマイチだが馬は最高
コウザンシンオー(40KB)
コウザンシンオー、返し馬
このキャンターはよかった

レースなり
さてレース。距離2000mのスタート地点は2コーナーのポケット。
ゲートが開く。キングダイオーが1馬身くらい立ち後れる。他は概ね横一線のスタートから、程なく戦前の予想通り、ヤマノキングがスパッとハナに立つ。外からホーエイハンターがすかさず連れて2番手に。内からシュメイヒーローがじわじわっと上昇して3番手。そしてルビーノヒミツが。ここで差が開いて、続いて内にミスターナタリー、この馬にしてはかなり前の位置取り。キングダイオーが後手踏みから押し上げてこの外に、これも割と前付け。また開いて内にワタリエリート。この外にコウザンシンオー、今日は中団からということに、西村騎手の手綱は微妙に押っつけ加減。また開いて後方2頭は内トチノグレイス外ワタリキングス。こんな隊列で、最初の向こう正面から三分三厘を通過。
そして正面スタンド前。先頭ヤマノキング。2番手外1馬身程度の差でホーエイハンター。両者喧嘩することなく、よく抑制されて折り合っている。直後内にシュメイヒーロー、同列外目にルビーノヒミツ。2、3馬身程度の差で内ミスターナタリー外キングダイオーが続く。次列内ワタリエリート外コウザンシンオー、前との差は当初より詰まった。ややあって後方変わらずトチノグレイスとワタリキングス。

1周目(32KB)
1周目の正面スタンド前
先頭ヤマノ2番手ホーエイ、両者いい感じ

1、2コーナー中間、注目するはコウザンシンオーとキングダイオー。シンオーは直前にキングを見る形、そろそろっとその差と詰めている感じ。
そして2コーナーを回る。ここで先に動いたのはコウザンシンオー。前のキングダイオーを交わして上昇開始。これを承けて、キングダイオーもやや遅れて仕掛け、シンオーの外に並びかける。しかしながらキングダイオー、お得意のバック捲り一発!とはいかず、行き脚の割には鞍上鮫ちゃんのアクションが大きい。一方のシンオーも、えっちらおっちらと、目覚ましい脚ではない。両頭そんな感じでバックを進む。他の馬はといえば、ヤマノキングは変わらず先頭。ホーエイハンターは下がったのかヤマノとの差が開く。一見「あれあれ?」状態。シュメイヒーローも伸び悩み気味で、三角手前ではシンオーとキングに外から抜かれてしまっている(が、振り返ると、これ、ホーエイはタレたわけではなく、束の間前のヤマノと離れただけのよう。シュメイヒーローも、この馬なりに踏ん張っているところ、意外にシンオーとキングが加速していて、呑み込まれた体裁みたい。)。
そして三分三厘から4コーナー。先頭ヤマノキング目がけて、再度ホーエイハンターが迫る。そしてシンオーvsダイオーの脚比べを制したのはキングダイオー、この時点でシンオーを振り切って単騎3番手となった。
さあ最後の直線。ヤマノキングが先頭で回るも、外からホーエイハンターが並びかけ、程なくこれを交わし、トップが入れ替わる。脚に衰えはなさそう。押し切るか、というところ、さらに外を回ってキングダイオーが差し込んでくる。これが馬場のど真ん中。内ホーエイハンター外キングダイオー、暫しの叩き合い。そして残り50あたり、遂にキングダイオーが先頭に。そしてそのまま、待望の重賞初勝利のゴールに飛び込んだ。2着1馬身遅れてホーエイハンター。

キングダイオー(47KB)
キングダイオー、ホーエイハンターを交わしてゴールへ
悲願の重賞制覇だ

この後ろ、ヤマノキングがインで持ちこたえてゴールへ、というところ、外を通ってコウザンシンオーがやって来る。ちょっと遅過ぎた末脚だが、ゴール前内外大きく離れて両頭際どく入線。結果、シンオーがクビ差ヤマノキングを交わして3着。
以下はリアルタイムで印象なし。5着4馬身差ながらもシュメイヒーローが、後半沈まず入線。6着ミスターナタリーは好位ママといった体裁、後ろから抜かれたのはキングとシンオーにだけ。トチノグレイスとワタリキングスは7着8着、この日の傾向では追い込み一発は苦しかろう。9着早々に先団を落ちたルビーノヒミツ。最下位ワタリエリート。

振り返って、そしておしまい
キングダイオー、遂に重賞を勝った。この馬、明け4歳前半から素質を注目され、地力は重賞級と見なされていたのだが、休養や格付け、ローテーションの兼ね合いもあって、重賞出走の縁に乏しく(確認したところ今回3度目の重賞挑戦)、勝ちも叶っていなかった。今日はこの馬の脚質のキーポイント、バック前半の手応えは案外で「あれっ?」と思ったのだが、結果何だかんだでちゃんと差し競馬の形になって、末脚も確かに勝ち切った。余談だが、気になるのはこの馬のフォーム。寸詰まりの巨体ということもあろうが、加速しても、見た目に首や胴体を殆ど使わず、伸ばしていない。脚力だけで推進している感じだ。撮影した写真に写った彼、おかげでどれも首が高い。
ホーエイハンターは敗れこそすれ、力あるところを見せてくれたと思う。この脚質なら確実性あろうし、先行馬ながら、その走りは一本調子ではなく、柔軟性があった。まだまだ若いので、今後に期待が持てよう。なお、一昨年の九州アラブダービーで2着に負かされたコウザンシンオーに対しては、ちょっと中途半端にではあるが、リベンジを果たしたこととなった。
コウザンシンオーはなあ。どうも「何となく」捲り差し競馬やっちゃった気がする。地元ではこの戦法で圧勝しているが、この馬差しプロパーだとは思われないし、これで勝てるのは、単に他馬とレベルが違い過ぎているが故だろう。佐賀勢に混じっては、やはり半端な競馬では勝てないな。メグミダイオーにも言えたことだが、地元に能力拮抗したライバルがおらず、フツーに走って圧勝になってしまう状況というのは、ある意味悲劇である。西村幕持って応援に駆けつけた"荒尾競馬の決め手"さんも、「残念でしたねえ、悔しいなあ。」と。「うーん・・・荒尾の古馬は、地元のレース観た方が、やっぱり面白いってことかなあ。」と、栃さんいささか興醒め気味か。ではあるが、この馬、今後も挑み続けるしかないのだ。
ヤマノキングはこの馬の個性を充分発揮して好走したと思う。2000m戦でこれだけ走れれば、もはや短距離専門馬ではなかろう。激しかろう気性が、渋太さと根性となって、非常にプラスに出ていよう。この手の逃げ馬は嫌いではない。
シュメイヒーローは近走全盛時ほど良積ないにしては粘走した方か。ミスターナタリーは追い込みではなく好位競馬するも結局これ。味が出なかった。この2頭は今日はイマイチ。

馬券は一応的中するも、配当は470円と安く(そりゃそうだ、本命サイドの枠複だから。因みに馬複1,160円、馬単1,530円、シンオーが飛べばこんな感じ。)、張った金額配分の拙さもあって、結局トリガミ。まあ、1月の馬券絶不調からすれば、払い戻しの列に並べただけでも御の字か。こんなふうに志が低いからアカンのだよな。

さて、いよいよ次は大一番、西日本アラブ大賞典。地元佐賀の迎撃手筆頭、キングダイオーならそれも相応しかろう。距離2400mの長丁場も、レース後の勝利騎手インタビューにおける鮫ちゃん発言からすれば、不安はなさそう。曰く「折り合いがつく馬なので長いところはいい。」そうな。これには「えっ、キングダイオーって長距離得意でしたっけ?」と3号馬さんから懐疑的に突っ込み入ったのだが。「まあ二四戦は未経験だけれど、千八以上は実績あるし。」とワシが返すと、横で"首領"Tienさんが「んな2400m戦なんて、今や年に1度しかやらねえんだから、(適性なんて)判るわけないだぉろが。」とグサリ。とまれ、鮫ちゃんにそこまで言わせたのだから、これは頑張って貰うしかないでしょう。ユキノホマレあたりとの捲り合戦、叶えば面白そうだ。

最後に、コウザンシンオー。たとえ力及ばすの結果となろうとも、この馬には、チャレンジャーとしての立場が似つかわしい。これも恐らく次走は西日本アラブ大賞典。頑張れ、ただただ頑張れ――

2003.2.5 記

兵庫発アラブ現場主義ホームに戻る