第19回キングカップ観戦報告

 2003.3.23、福山、1600m

はじめに〜出走メンバーについて
「福山ダービー前哨戦、牡馬セン馬ラウンド」キングカップである。レースについてのハナシのツカミは、前日施行されたクイーンカップの観戦記、その冒頭に記したので重ねては触れず、早速今年の出走馬をば。
内枠より以下のフルゲート10頭。()内は騎手。斤量は馬齢定量で全馬54k。
モンゴリアン(岡田)、マリンズゴールド(黒川)、スイグン(片桐)、ホワイトセーラ(池田)、ハートビート(周藤)、ムサシボウタッチ(石井)、セイコウ(鋤田)、ユノエージェント(嬉)、ビートザウイング(柳井)、ムツミセンター(岡崎)

この世代現在の筆頭で最もクラス上位なのはユタカリュウオウ(前開催B2B3戦4着)なのだが、追い切り後に転倒というアクシデントがあったそうで(『福山エース』より)ここは回避となった。
この回避によって、世代次位たるユノエージェントが、今回は中心となろう。昨年末の全日本2歳アラブ優駿では地元最先着3着であり、正月開催の若駒賞を制した馬である。これ以外の9頭は全て未だ古馬編入には至っていない。2歳時からの上位馬と年明け以降クラスを上げた馬が入り乱れての一戦となった。前者がムサシボウタッチやセイコウやムツミセンターであり、後者がスイグンやホワイトセーラやマリンズゴールドやモンゴリアンといったところ。

当日の概況〜メインレースまで
前日土曜日に続いてまた福山へ。土・日連闘の場合は、福山のビジネスホテルに泊まった方が楽でありまた経済的負担も軽いのだが、青春18きっぷが利用できるシーズンでは、日帰り2回の方が安い。今日はちょっと寝坊したので、現地到着は1時半過ぎ。
空全体に薄く雲が広がっているが、明るさは充分。風はあるが気温はまずまず。が、薄着だとまだ肌寒い。競馬場の対面の稜線が春霞でぼやけて、いかにもこの季節らしい。
馬場状態は良。昨日の稍重からそのまま降雨なく乾いた。
展開傾向を朝一番から来福していた"リーダー"前田っちに訊ねると、「前半戦は逃げ・先行有利。ただ馬場の外目の方が終い伸びて、内は重め。」とのこと。中盤戦以降には差し差し決着も見られたが、これは能力なりであったようだ。

第8競走はC2の5組戦、距離1600m。ここに、昨年末道営より転入した3歳牝馬サンダーソレイユが登場。他地区デビューなので、クイーンカップへの出走資格がない。道営出身のこの世代、当初は低レベルとの評価が大勢だったのだが、他地区に転じた連中の相当数が、その先で躍進。彼女も然りで、12月8日の2歳2組戦勝利を皮切りに、以後4戦3勝2着1回の見事な結果を出している。ここも大本命評価。
そのレース、サンダーソレイユは過去4戦のパートナー若手三村クンに代わって、今日は岡崎さん鞍上。1番枠を利してピュンとハナに立ち、以降グングン加速しての単騎逃げ。相変わらず猛烈なピッチ走法。ホームストレッチから向こう正面にかけて、後続を30m以上は引き離す大逃げとなった。「このまま行くのか!?」と思いきや、3コーナー以降ペースが鈍り、やがて対抗評価のセレクションに捕まり2着で終えた。
岡崎さんはほとんど手綱無制御。行きたいように行かせた感じ。最後の直線に向くまで追い出さなかったものの、それに至る以前に脚が売り切れた感。「いくら何でもあの乗り方はないだろうよ。」と、おさるさんは騎乗法に不満を呈した。「全盛時のモナクマリンの御し方と同じやん。でも馬がまだまだってことかな。」とワシ。それにしても、「クイーンカップに出られればなあ。」との未練は残る。少なくとも、ミスラッキーよりは明らかに上手(うわて)だぞ。

パドックから発走まで
さてパドック。春の柔らかい西日に照らされて、毛艶をてらてらに見せる馬が多い。概して好印象。
1番モンゴリアン。明るい鹿毛の毛艶はスッキリ。張りもある。若干胴回りは緩めか。前々走が高知・荒尾・福山交流特別競走(以下高荒福交流と略)2着、前走前開催の3歳3組戦で勝利。逃げ・先行タイプ。
2番マリンズゴールド。相変わらずガッチリしつつ重厚な馬体。二人曳きのところ、グイグイと気合いが入ってくる。前々走高荒福交流3着、前走は姫路の福姫交流にてラピッドリーランの2着に健闘。先団・好位を渋太く維持して、終いもうひと斬れ脚を使うのが個性。
3番スイグン。あのエイランボーイの全弟で、兄と同様ホーエイヒロボーイ産駒らしい重厚なボディ。バンバンの馬体張りで黒鹿毛の艶もビカビカ。大股で踏み込みも力強い。チョウヨームサシに雰囲気似ている。近3走3歳1組戦で2着4着4着。前走1組戦の勝者はデザートビュー。先行して粘り込む競馬が続く。
4番ホワイトセーラ。まだら芦毛なので毛艶はよく判らぬが、キビキビとした身のこなしでとても元気。踏み込みはソコソコ。前々走高荒福交流を勝って上位への足掛かりとし、前走前開催の3歳1組戦3着。逃げたいクチだが、前走はデザートビューの前にサスガにハナは奪えず。
5番ハートビート。補欠待遇だったところ、ユタカリュウオウの回避で登場。あのタッチアップの半弟。スラッとしたフォルムはまずまずなのだが、冬毛ボーボーで今日の見栄えは最低。昨晩秋から4開催休んで、前走前開催の3歳1組戦で復帰するも9着最下位。
6番ムサシボウタッチ。皮膚が薄いのがよく判るほど、毛艶は最高。じんわりした気合い乗りで、以前よりはやる気が現れている。リーダー共々「おおっ!これはエエやんけ!」と。近3走3歳1組戦で1着6着2着。2歳時早々から追い込み一手の脚質、後半確実に押し上がってくるが、なかなか勝利に至らない。
7番セイコウ。実入りはまずまず、毛艶はソコソコ。大人しく歩いているが、そのスピードは遅く、トモの出は浅めで、歩様は硬い。近3走3歳1組戦で5着5着6着。中団からじわじわ押し上がる差し脚質だが、最近は中団ママで終わることが多い。
8番ユノエージェント。相変わらず脚の長さと背の高さが目立つが、以前よりはフニャフニャとはしていない。毛艶も馬体張りも上々で、見た目力強さは増したと思う。のんびりとした周回だが、やる気ないことはない。3走前から古馬編入され、前走はC2の2組戦で3着。逃げ・先行競馬が続いているが、陣営によれば、「ハナを切るとソラ使うので、前に馬がいた方がいい。」とのこと。因みにこの日のパドックメンコ。橙地に額に青字で「湯野」と横書きの一点もの。馬主の眞吾さんには申し訳ないけれど、かなり笑える代物。
9番ビートザウイング。スカッとしたフォルムで脚長。皮膚の薄さが目立つ。トモのボリュームはない。前々開催は3歳3組戦勝利で、前走前開催の3歳1組戦5着。追い込み得意。
10番ムツミセンター。ドッシリと実入りに富んだ馬体で毛艶も上々。最初は大人しかったが、次第に気合いが入ってきて、後半は暴れる程になった。前々開催は3歳1組戦3着、前走は3歳2組戦に落ちて勝利。これも差し・追い込み得意。
騎乗命令か掛かり、騎手が跨ると、ホワイトセーラやユノエージェントなどは更に気合いが増した。ムツミセンターは相当煩い。

スイグン(41KB)
スイグン、パドック
重厚でビカビカの好馬体、これはイイ!

本馬場入場から返し馬。ビートザウイングは一角方向に直行で、真っ先にスタンド前にやって来る。ユノエージェントはやや強めだがマイペースの感。ムサシボウタッチは意外にもやる気が窺われ、やや強めの走り。スイグンは片桐騎手に手綱ガッチリ押さえられ折り合いつつも、ギンギンのピッチ、ド迫力で流して行く。ホワイトセーラもピッチ走法、シャープに強く駆けて行く。ムツミセンターやマリンズゴールド、モンゴリアンは楽に。

予想。クラス上位のユノエージェントは取り敢えず信頼に足ろう。「ホワイトセーラいるから、その番手にすんなりだもんな。自分がハナ切らなくていいと(この馬的には)楽だよな。」とおさるさんも。おさるさんはホワイトセーラの地力強化も認めているので、この「行った行った」馬券を厚く。ワシはユノを気にしつつ、好調そうな追い込み馬、ムサシボウタッチも気になる。ということで、馬券はこの2頭からの二正面作戦。相手には、ホワイトセーラとスイグンを。スイグンはエイランボーイの全弟ということもあり、個人的に期待が大きい。「でもなあスイグンはなあ、行って粘るだけだからなあ。」とおさるさん。因みにリーダーのお楽しみ馬券はモンゴリアン−スイグン。「何を元寇繋がりな馬券を買っとるねん?」とツッコミが入る。

レースなり
さてレース。距離はクイーンカップと同じく1600m。向こう正面半ばが発走地点。
ゲートが開く。ホワイトセーラが押されて予想通り、すんなりハナを奪取。これにスイグンも続く。外からユノエージェントもジワリと前に出て先行体勢に。次いでハートビートやムツミセンター、セイコウら。しかしながら、明確に先行競馬を主張したのは前3頭だけのようで、三分三厘にかけて、これらとそれ以降の馬との間隔が開いた。
正面スタンド前。先頭変わらずホワイトセーラ。2馬身弱あって、内スイグン外ユノエージェントが並んで次列。さらに2馬身程あって、内にモンゴリアン。ムツミセンターはこの同列外目、ユノエージェントの後ろ。両頭の間やや下がってセイコウがいる。この直後にハートビートが続き、マリンズゴールドはこの後ろ。ビートザウイングが内でケツ二、殿はやはりムサシボウタッチ。

1周目(42KB)
1周目、正面スタンド前
先頭セーラ、次列内スイグン外エージェント

向こう正面に入っても前3頭が快走で、これに後続から絡んで来る馬がいない。そのうちにバック半ば早々、ホワイトセーラの外にユノエージェントが並び掛け、交わす態勢へ。そして3コーナー、すんなりそれが叶ってユノエージェントが先頭に。食い付いてきたのはスイグンただ1頭。三分三厘外から取り付いて、馬体が並ぶかどうかというところまで迫る。
このままの形で最後の直線へ。ユノエージェント、馬場真ん中を一目散。外からスイグンが食い下がる。が、やがて漸次その差が広がって、これで勝負あり。最後は1馬身半の差をつけて、ユノエージェント、人気に応える重賞初勝利となった。

ユノエージェント、ゴールへ(34KB)
ユノエージェント、ゴールへ疾走
やっぱり脚長でクニャクニャ感が目立つなあ

2着もスイグンがそのまま入線。この後ろは7馬身切れてしまった。3着にはビートザウイングが後半差し込んで、知らぬ間に上位進出で入線。が、リアルタイムでの記憶は皆無。4着も同様なセイコウ、しかし3着とは4馬身差。ホワイトセーラは直線捕まり5着。ムサシボウタッチは四角をケツ二で回って届かず6着。7着モンゴリアン、8着ムツミセンターは前半好位も脱落して。マリンズゴールドは見せ場ない後方ママで9着。最下位はハートビート。

ユノエージェント、口取り(45KB)
ユノエージェントと関係者御一行様
額には「湯野」の2文字が・・・

ユノエージェントの勝ち時計は1分49秒フラット。この日は前日よりは時計が出ているようだが、それを踏まえても、前日のデザートビューのタイム、1分50秒フラットと遜色ない、ひょっとすれば上回るものである。
レース後の口取り撮影時。あのパドックメンコをまた被って写真に収まるユノエージェントであった。この後で、ユノエージェント、馬主の眞吾さんの御厚意か、コースに再登場してくれて、我々に目の前で写真撮らせて下さった。しかも嬉騎手のポーズ付き。アリガトウゴザイマシタ。
スイグンは単勝9番人気だったものの、連勝式において、ユノエージェントの相手としてはソコソコの人気。ということで、馬券は取るには取ったがトリガミであった。

振り返って、そして最終第11競走について
3着以下は差し馬の紛れ込みがあったものの、1、2着の隊形は2周目の三角で決まってしまうという、いささかスペクタクルに欠けた、大味な凡戦だったような気もしなくもない。
が、まあそれは、ユノエージェントが、素っ気ないくらい、クラスと地力上位を見せつけてくれた結果でもあろうか。ホワイトセーラの番手にすんなり収まって、走り易いことこの上なかったのでは。まずは完勝。
スイグンは片桐騎手の積極的な競馬が吉と出て2着。前半の脚を惜しんでいたら、きっと差し馬に食われていたろう。確かに「行って粘るだけ」の脚質だが、パワー強化なれば、他をねじ伏せる、兄のような競馬が出来そう。
ビートザウイングの差し脚は凄かったようだが、リアルタイムで全く確認出来なかったので、コメントのしようがない。セイコウも同様。
ホワイトセーラはまずは見せ場を作ってキャラ発揮の5着なので、それなりに評価は出来る。
しかしムサシボウタッチは・・・全く流れに乗れていないし、完全なる不発。追い込みが全く届かない馬場でもなかったろうし、道中ケツ二だったビートザウイングが3着なだけに、不満の残るレースだ。
マリンズゴールドも何も出来ずの惨敗。もっと走れそうなものを。クイーンカップもそうだったが、福姫交流を走った補助馬組の案外さが、どうも気になるところだ。

さて最終第11競走、春蘭特別、B1クラスの1600m戦。ここにモナクカバキチが登場。佐賀の西日本アラブ大賞典に出走後、速攻福山に再移籍したようだ。そのレース、カバキチは珍しく先行競馬。逃げ馬がいないメンバーでもあり、早々に前列外目から抜け出して勝負ありの1着。何だか地力有り余っているような勝ち方、今後は腰据えて、自力で瀬戸内のA級を出世しなさいな。
2着に最低人気のトビシマノウミが好位差しで突っ込んだ。アヤヒカリも出ていたが、これはいつもよりは好位前々の競馬ながらも後半伸びず4着止まりであった。まだまだ「姉の方が偉い」状況か。
因みにこの勝ち時計は1分49秒7。やはりユノエージェントのタイムは優秀と言えよう。

福山ダービーを想いつつ、おしまい
さて最後に。キングカップ、クイーンカップ併せてのまとめと、福山ダービーへの展望など。
まずは、華やかで圧倒的なデザートビューの逃げと、堅実に地力で押し切ろうユノエージェントが、戦線の中心となったろう。両者脚質的にも競合せず、むしろユノとしては、デザートビューが引っ張ってくれれば御の字。
ホワイトセーラやモンゴリアンの逃げ脚では、ちょっとデザートビューには敵いそうもない。問題はラピッドリーラン、どういった気構えで臨むかが注目。死ぬ気でテンに出てくるようだと、これは怖いし、レースの流れ自体が荒れそう。
差し・追い込み勢には、出番が回ってくるかどうか。今日もビートザウイングが3着突っ込んだものの、これらの誰かが連入し得るかは疑問。それでも期待したいのはムサシボウタッチであり、距離1800mも合いそうなのだが・・・永遠の「展開待ちぼうけ」になりそうな気も。
と、能力的にも展開的にも、まずはユノエージェントは問題なく、また有利そう。が、ここで、忘れちゃいけないのがユタカリュウオウ。この馬、逃げ馬の直後からチョイ抜けして押し切ることに関しては、ユノエージェント以上に狡っ辛く長けているからして。アクシデントからすんなり立ち直れるようだと、やっぱり最右翼。
というわけで、デザートビューが逃げ一強で、ユタカとエージェントが先行二強であるならば、「結局また番手争いで巧く乗ったもん勝ちだもんなあ。これじゃ競輪の予想みたいだよな。」と、おさるさんが皮肉る通りのレースが、現出されそう・・・

ところで、実はこの2重賞、「ダービー前哨戦」との位置づけながら、過去ずっと勝ち馬が、ダービーを勝てていないのである。'89年のキングカップ馬アサリユウセンプーまで遡らねば、福山ダービー馬に行き当たらぬという、これが!
ジンクスに泣く馬、笑う馬、それを吹き飛ばす馬・・・さて、今年の福山ダービーは、如何なることに?

2003.4.6 記

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