第40回楠賞 全日本アラブ優駿観戦報告

 2001.6.6、園田、2400m

はじめに
さあ!楠賞全日本アラブ優駿。兵庫のアラブ系競走が縮小一途であろうとも、1着賞金が1,000万円に減額されようとも、レース名から「農林水産大臣賞典」の冠称がなくなろうとも、園田競馬最高格式と華やぎを持つ競走、楠賞なのである。何が何でもそうなのである。
と、冒頭からムキになってしまったが、数ある重賞競走のうちでも、このレースの雰囲気は特別。数少ないアラブの全国交流レース、ましてや3歳初夏の優駿競走。地区毎で完結、閉塞しがちなアラブ競馬界にとって、それはまさに"ハレ"の場である。
しかしながら今年の楠賞、天気がこの大舞台に水を差さんとする。前日から降り出した、関西に梅雨入りを告げる雨が当日になっても止まない。「困るよなあ・・・」というところ、アラブな方々の日頃の行いが良いからか、午後になるとごく小降りになり、2時過ぎには止んでくれた。まだ運がある。

メインレースまで〜御来園の皆様など
ということで午後から園田競馬場へ。園田駅に着いた頃には雨も上がろうかという感じ。ファンバスで競馬場に。入場してスタンドに上がり、暫くボケッと場内を見渡す。見知った集団が視野に入る。一服つけて皆さんに挨拶。まずは園姫系の方々。"新聞配達人"を押しつけられた中山車くん。「災難やったなあ、こんな役振られて。」とお礼とお詫びを言いつつ、『アラビアンA』の束を受け取り、新聞配りを引き継ぐ。ちょっと体格が育ち気味のケーズにいさん、"楠賞男"環さん(環ちゃんとワシの事前予想はこちらです。) 、例によって平日は"エエ「」"の京都人さん、まりおちゃんにラテちゃん、ともちゃん。とうまさん、お初の東海ローレルさん。去年は同日だった笠松のアラブDB観戦で楠賞に来なかった3号馬さんも今年は来園。遅れて広島から大盛りさんも。そして全国行脚の御歴々。江戸平多さん、大阪在住なのにお会いするのは関西以外でばかりのWSさん、そしてこれが初園田のyamachanさんが並んでコースにカメラを向けている。メイ後さんの姿も。そしてスタンドの取っ付きでちょうど来場したところだった栃さんと合流。関万さんは朝から乗り込んで。
加えて、ゴール板前に、同僚石井騎手の応援か、福山の若手騎手御一行がわんさか。

馬場状態は不良。前日からの雨が相当効いているのか、表面に水が浮いている。しかし砂が締まって軽くなったのか、走破タイムが軒並みべらぼうに速い。平均的な時計よりも3秒は速いのではないか。そして「朝から全ぇ〜んぶ逃げ馬が馬券に絡んでる。」と環ちゃんが教えてくれた通り、この日は逃げ馬デーの模様。後日競馬ダイジェストで観直すと、内ラチ沿い1頭分のところを逃げた馬が悉く残っている。見たところ、どうもこの内ラチ沿いの走路、砂が流れて一番軽くなっているようで、加えて水が捌けて浮いておらず、ここに高速時計の種があるようだ。

楠賞は第10レース、兵庫では重賞前のレースには重賞出走騎手は騎乗しないことになっており、ここには一般戦が入る。そして準メイン相当の競走は第8レース。その8レースはアラブのオープン戦。これがまた好メンバーが揃った注目の一戦。このレースについてはこちらでどうぞ
8レースを見届けて、9レースのパドック周回が終わったあたりで、楠賞のパドック待ちに。ここで"大御所"Oku師匠が到着。

※楠賞についてはここからです
さて、楠賞全日本アラブ優駿、出走馬は内枠より以下の12頭。()内は所属地区、騎手。
エムエスファントム(名古屋、吉田)、ボールドヒリュウ(兵庫、赤木)、ソレユケイチマツ(兵庫、平松)、ホクセツジョージ(兵庫、小牧太)、ホマレトウカク(上山、関本秀)、ダイリンフラワ(金沢、桑野)、ユノワンサイド(福山、石井)、アラブイットウオー(兵庫、松浦高)、クールテツオー(兵庫、岩田)、ガバナマイウェー(兵庫、木村)、ホマレエリート(上山、山田)、ジョージサンキュウ(兵庫、永島)
斤量は牝馬のダイリンフラワとホマレエリートは53kで他の牡馬は55k。

パドック、そして返し馬
9レースが終わり、遂に楠賞の出走各馬が姿を現す。パドック内の騎手待機所の横やパドック入り口脇の木陰には、出走馬各陣営の関係者さんが並び、大一番の雰囲気を醸し出す。
1番エムエスファントム。先月名古屋のアラブカップ、笠松のアラブダービーを連取して、東海代表として登場。伸びやかな馬体の作りは長距離も合いそう。ゆったりとした歩様で個人的には好感。いかにもカヅミネオン産駒らしい皮膚の薄そうな明るい栗毛の馬体。
2番ボールドヒリュウ。福姫交流の勝ち馬でフクパーク記念3着。フクパーク後の中間、3歳OP戦でソレユケイチマツを下して勝ち、ここに駒を進めてきた。やや馬体が緩いか。福姫交流、フクパークと、目撃した中では今日が一番コロンとした馬体。落ち着きはある。まあまあといったところか。
3番ソレユケイチマツ。園田3歳優駿とフクパーク記念、いずれもクールテツオーの2着、兵庫2番手をボールドヒリュウと激しく争ってきた。伸び伸びと周回。トモの力感もあり、踏み込みも良好。ホーエイヒロボーイ産駒らしさを感じさせる馬体。
4番ホクセツジョージ。ボールドヒリュウともども兵庫補助馬のトップだが、福姫、フクパークと不発。かなり鶴首で小走り、時折尾っぽを前後にバシバシ振って、ちょっとエキサイト気味。500k超の栗毛の馬体の見栄えは良い。今回は自厩舎馬の出走がなく、手の空いた太さんを鞍上に迎えた。
5番ホマレトウカク。上山コンビの一頭。2歳晩夏の重賞若草賞で当時世代筆頭のゴージャパンの2着の実績。黒鹿毛ということもあるがピカピカの毛艶で登場。なかなかの馬体。活気も好感。ホマレエリートどもども、メンコもワタリも手綱も全てピンクの馬装で、晴れ晴れしくキめている。またこのピンクの馬装が黒鹿毛の姿と非常にマッチ。
6番ダイリンフラワ。2歳時9戦全勝、アラブ3歳優駿も制した金沢ダントツの世代最強馬。今季2戦目通算11戦目で初めて土が付くも、これは古馬A3戦。捲り脚一気の競馬とのこと。見栄えのしない馬だと聞いていたが、想像していたほどのひどさではない。全身に発汗の後が。トモの踏み込みは浅め。リングハミが目を惹く。
7番福山のユノワンサイド。早くから期待されていたが大一番では勝ち切れず、"煮え切らぬ馬"との評価が確立しつつあったところ、福山ダービーを勝っての登場。ホーエイヒロボーイ産駒の中では馬体は伸びやかな方だと。素直に見れば雄大な馬格なのだろうが、この馬に対する個人的印象がよろしくないので、あまり好感は抱かない。馬体の見栄えに比してトモの送りが頼りないような。
8番アラブイットウオー。ステイブルラインの全弟。地元オープン勢だがちょっと格は落ちようか。背が高くなかなかの馬体だがヒ腹が細い。
そして9番が不動の本命、注目のクールテツオー。10戦全勝でフクパーク記念を制し、昨年のコウザンハヤヒデに続いて、無敗での楠賞制覇を狙う。中間一走させる予定だったところ不安が出て回避、それから立て直しての出走。ということで完璧な状態ではないようだが、能力の違いでここは押し切らんというところ。さてそのパドック、トモの歩みがあまりに妙。この馬元来トモの踏み込みが非常に浅いのだが、今日の歩様は、2、3歩引きずるように歩んでピョコンとスキップする如く脚を送るという、どうにもこうにも首をひねりたくなるもの。馬体はまあまあ、仕草もこんなもんだろうが、異形ともいえるトモのボリュームと筋肉の固まりのような姿、初見のお客さんの目を奪うには充分か。
10番ガバナマイウェー。フクパーク大敗後、この中間2連勝で臨む。伸びやかな馬体でしっかりと歩んでいてこれは意外と良い。あとは格での劣勢をどうにかできるかというところ。
11番上山からのもう1頭ホマレエリート。昨秋の2歳重賞若草賞でゴージャパンを破って勝利、現状かの地の世代トップ。因みにこの馬の姉の仔がホマレトウカクであり、2頭は叔母甥の関係である。スッキリした好馬体。『キンキ』紙上に「走るスマノヒット産駒らしい馬体」とあったが、スーパーチャレンジやマノノトップガンらの、伸びやかな首差しと胴体を想起すればなるほど納得できる。トモの踏み込みはまあまあか。
12番ジョージサンキュウ。地元オープン上位の常連なれど、2、3、4着がやたら多い、勝ち切れない馬。相変わらずの、よく言えばシャープ、悪く言えばガサのない、牡馬ながら華奢な馬体。

Wホマレ(44KB)
「ピンクの馬装は心意気!」
左ホマレエリート、右ホマレトウカク、同厩舎、揃いの出で立ちでキメて

「止ま〜れ〜」の号令がかかり、騎手が騎乗する。ここで鞍上に岩田騎手を乗せたクールテツオーが相当激しく暴れ出す。通常ならば騎乗後まる1周してパドックを退場するところ、曳いていた厩務員さん二人、周回の輪を離れて真っ先にパドックを出るようテツオーを導く。

そして本馬場入場。誘導馬より先にテツオーが登場。ゴール前まで来ることなく、入場口から1コーナー方向へ駆け出して待機所へ直行。待機所に直行するのはテツオーの返し馬の常。ボールドヒリュウは今日はスタンド前から1周流す。ユノワンサイドは強め。ソレユケイチマツも力強く。エムエスファントムとダイリンフラワの有力遠征馬2頭は、四角からじっくりダクに下ろし、並んでゴール板前を歩んでいく。エムエスはまる1周ダクを踏んで、再度ゴール板前までやって来て、ゆっくりと四角方向に引き返していく。大一番では早々に待機所へ馬を入れる傾向があるところ、このリラックスした感じは印象的。

エムエスダイキチ&ダイリンフラワ(46KB)
「遠征さん、いらっしゃ〜い!」
左エムエスダイキチ&右ダイリンフラワ、本馬場入場からダクへ

予想・検討タイム〜発走まで
クールテツオーの中心は動かし難いムード。これは致し方ないところか。しかし地元馬を相手にするか遠征馬を相手にするかは、ファンの見解の別れるところのよう。
「遠征馬に期待」派としては、地元馬はこれまでテツオーに全く歯が立っていないことから、テツオーに少しでも迫れるのは他地区の馬では、というのがその根拠というところか。現にオッズは、単勝も連勝の売れ筋もエムエスファントムがテツオーに次ぐ人気。ダイリンフラワがこれに続く。殊にエムエスの人気ぶりは特筆もの。9戦7勝2着2回でここ2戦は重賞連覇、加えて、先行脚質で今日の馬場で絶対有利な1枠発走ということが買われてのことだろうが、正直「見込まれ過ぎなんちゃうか?」という気も。ダイリンフラワはその戦法が非常に魅力だが、この馬場では展開的にちょっと不利か。それでありながらなかなかの支持。
一方「地元馬評価」派としては、テツオーのアタマは堅いとして、2着も地元勢がレベル的に確保できるのでは?という見立てがその根拠か。その中でもソレユケイチマツが、実績からも、また漂う大物感からも相手筆頭か。ボールドヒリュウは距離不安がしきりに強調されている模様。前二走不発だが、太さんに乗り替わったホクセツジョージの差し脚が不気味。
ワシはズバリ、ボールドヒリュウから。この馬、実はワシのココロの楠賞馬でして、今年1月の時点で「楠賞勝つのはこいつ!」と公言してしまっているという。ということで初志は貫かねば。それにしても予想紙のシルシが薄くて、「調子悪いのか?」と心配したのだが、結局その根拠は距離不安に尽きるようで。加えて森澤調教師のコメントは例によって弱気なニュアンス、しかしながら「状態は良い」そうではないか!こうなるとしめたもの。「ワシは森澤さんの弱気発言にゃ騙されんでぇ」といったところである。相手はテツオー、エムエス、ダイリンといったあたり。馬単で勝負。テツオーに関しては、完調とは言い難い状態への不安と、血統的な長丁場への不安(全兄がイセイチフブキやマルイシヒーローであるからして)を、他馬との地力差でどれだけカバーできるか、という点がポイントか。「テツオー絶対」というような当日の雰囲気からすれば、ワシのテツオーへの見立ては相当シビアだとは思う。

ゴール板前に陣取り発走を待つ。この時ワシの隣に立った女性、何と"日本一アラブを愛するオンナ"とこちらで勝手に認定している、エッセイストのあのお方。ここでワシ、Oku師匠に駆け寄って「あの人○△◇×☆さん?」と訊くと、やっぱりそう。ここでチャンス!?とばかりに、かくかくしかじかと名乗って、『アラビアンA』を手渡しする。訝しむこともなく「ほほう」という 感じで受け取って下さりホッ。そしてお連れの女性にも配る(この女性がリュウコさんだったのですね)。"新聞配りのオッサン"としての宿願の一つが叶い、ちょっと嬉しい気分のワシであった。

レースなり〜リアルタイムインプレッションを軸に
いよいよレース発走。距離2400m、いまやこの楠賞と園田金盃の二競走でしか施行しなくなった、園田のチャンピオンディスタンス。スタート地点は四角のポケット、千四の発走地点から約50m前に出たところ。
各馬揃った綺麗なスタート。その中から、外のクールテツオーが猛ダッシュ、インにグンと切れ込んで、今日の馬場で一番スピードの出る、内ラチ沿いを取りにいく。連れて隣のガバナマイウェーもテツオーの外に併せてインへ。さらにユノワンサイドもこれに続きガバナの外に。一方、1枠発走のエムエスファントムは、枠順を利し積極的に前へ行くかと思いきや、テツオー以下の外枠勢がフロントインを押さえたのを承けてか、これらの後ろにすんなり控える。2枠のボールドヒリュウもいつもの鋭発ではなく、ゆったり出したと言おうか、並の発馬でエムエス共々控え気味。3枠のソレユケイチマツも慌てず内でエムエス、ボールドの直後。

1周目(32KB)
最初のホームストレッチ
先頭内に切れ込んでテツオー、2番手連れてガバナ、外ワンサイド、インにエムエス

先団の位置取りは最初のゴール板通過あたりまでで一旦定まり、隊列は1周目の1、2コーナーへ。先頭はテツオー2番手外ガバナ、直後インでエムエス外ワンサイド。これらを前に見てボールド、鞍上赤木の手綱はやや突っ張っているものの、危惧していたよりは掛かっていない。その外にホマレエリートが併走で、直後に一角コーナリングで外に持ち出したソレユケが。この外にジョージサンキュウ、最内にホクセツジョージ、ジョージサンキュウの直後にホマレトウカクとダイリンフラワで、このあたりが中団。殿がアラブイットウオー。
向こう流しに差し掛かるあたりで、後方待機ではと戦前見込まれたダイリンフラワが、馬群のド真ん中を中団から先団まで上がっていく。ちょっと掛かって鞍上桑野が持っていかれている感じ。そして三角手前でこれも掛かったかソレユケが、先団の外を上昇。この時点でアラブイットウオーはドンケツドカ遅れ。
2度目のホームストレッチ、先頭は変わりなくテツオーだが、2番手も変わらずガバナがピッタリ。テツオーの逃げは後続を離してのものではなく、差がなく先行・好位勢が直後に続く。3番手外にソレユケが押し上げ、エムエスは相変わらず先団イン、ワンサイドはやや内に入りエムエスの外に暫し併走から一角ではこの前に。ボールドは変わらず前に馬の壁を作った4番手あたり。
二角を回って、2周目の向こう流しに入ったあたり、先に仕掛けたのは平松ソレユケイチマツ、好位から外目を上昇開始、前のテツオーに迫る。この辺でテツオー、岩田の手綱がちょっと動いてぼちぼち気合いを入れ始める。そうは容易く好位勢の取り付きを許さぬといったところ。エムエスがここで後手踏み気味、ホクセツジョージの反応も悪い、相当ズブそう。
そして向こう場面も半ば、ソレユケの発進から2、3テンポ遅らせた形で、赤木ボールドが仕掛け始める。当面のライバルは外のソレユケといった感じで、じりじりと前へ。ユノワンサイドの動きが次第に鈍くなり鞍上石井騎手の手綱が動く。先団外ではホマレエリートが必死の食らい付きを見せる。
いよいよ3コーナーの坂越え。このあたりで残り400m、既に二千を走破し、この先はどの馬にとっても未踏の領域。先に仕掛けたソレユケが坂を越えて脚いろを失い、ユノワンサイドやエムエスファントムも劣勢か。ダイリンフラワはここで全く付いてくることが出来ず脱落。先頭テツオー、その直後外は大健闘ガバナ、ボールドはテツオーの直後単騎イン、しかし前を捉える脚勢はない。四角、「いつ突き放す?テツオー」の見込みに反し、テツオーの単騎抜け出しは叶わぬまま、勝負は最後の直線へ。
インベタで必死の逃げ込みを図るテツオー、しかししかし、残り100mあたりでガバナマイウェーの二の脚全開、外からグイとテツオーの前へ。悲鳴にも似た喚声の中、テツオー無敗の11連勝での全日本制覇の野望を挫く力走でゴールへ。ガバナ鞍上木村騎手の渾身の左鞭、その最後のモーションは直後ガッツポーズになった。

ガバナマイウェー、ゴール(37KB)
ガバナマイウェー、抜け出して振り切って戴冠
"キムタケ"の左鞭はガッツポーズ

そして「テッちゃんせめて2着は!」というその刹那、残り30mあたり、どこをどう走ってどう息を吹き返してきたか全く不明の、その実は直線に入って外に持ち出し、残り100mから脚に火の点いたユノワンサイドが外から強襲、アッという間にテツオーを蹴落として2着になだれ込む。テツオーは3着。その真後ろに結局テツオーを抜けなかったボールドヒリュウが4着で入線。四角で大外に持ち出した太ホクセツジョージが差し込んで5着。2周目向こうであまり動けず、結果差しに回ることになったエムエスファントムは、直線ホクセツとの競り合いに負けて6着。
勝者ガバナの走破タイム、2分38秒9はコースレコード。このレースも高速決着。

大本命馬の連対落ち、そして馬券的には大波乱の結果に、落胆とヤケクソの雰囲気が綯い交ぜになって場内に漂う。審議のランプが点灯し、確定までの間延びした時間が、「何故負ける?テツオー」の問いを強いるかのように流れる。ようやくレース確定。場内は次第に、ガバナ鞍上勝利jkの木村騎手への祝福ムードに変わっていく。
しかしながらこの結果を目の当たりにして、ワシのアタマにまずもって浮かんだことは、テツオーについてのものではなく、「マルセンガバナーの息子が勝った」というこの一点。マルセンガバナー――ワシが推したボールドヒリュウの父、オカノヒリュウと同時期、これと鎬を削って遂には園田に君臨するに至った、晩熟の帝王、黒い重戦車――この園田ゆかりの名馬が、産駒三世代目にして楠賞馬を輩出したという快挙への感嘆の念、なのであった。

口取り撮影のため、木村騎手を背にガバナマイウェーと関係者の皆さんが本馬場に登場する。これが重賞初勝利となる"キムタケ"こと木村騎手に祝福の声援が飛ぶ中、ガバナマイウェーの姿を感心しながら見つめるワシ。戦前はほとんどノーマークだったこの馬、ここで改めて見直すとやっぱり良い馬体。馬体重は460k台ながらも雄大に見せる。隣の3号馬さんと、「オカノヒリュウ(産駒)じゃなくてマルセンガバナーだったなあ。」「そうですねえ、でもマルセンガバナーって晩成型ってイメージ強いんですけれどねえ。」「これが意外と初年度産駒のノースガバナーがジュニアカップ2着取ってたりしてて、あながちちそうとも言い切れないみたいなんだよね。」などと語らう。目前ではその勝者が、キリッと澄まし顔で記念写真におさまっていた。

ガバナマイウェー、口取り(32KB)
ガバナマイウェー、口取り
全く涼しい顔をして、しかしイイ馬だ

「荒れたそうやないか。間に合わんで良かった・・・ケッケッケ」と、表彰式が終わった頃に山ちゃんが登場。『山ちゃんのご意見板』の常連のまんきち!さん(お初です)と三人で、スタンドのベンチに腰掛けて暫し会話。このまんきち!さん、「楠賞ゾロ目理論」に基づき、テツオーと同枠のガバナマイウェーを推奨して、枠複7−7で勝負、すんでの所で獲り逃がしたという、とんでもない御仁なのであった。

総括など
まずは敗れた本命クールテツオー。万全ではなかった状態、距離の壁、通った馬場・・・敗戦材料は負けた後となっては列挙されるわけだが・・・戦前「完調ではなくとも大丈夫」というような見立てが予想紙をはじめとして大勢を占めたところ、敗れて「やっぱり状態が」と掌を返すような回顧になるのは正直滑稽。そこはさすがに全日本の舞台、半端な状態では勝てないということを痛感するべき。それはそれとして、距離の壁はやはりあったかなと。ケーズにいさんも「あれぱっぱり距離やろ。」との評価。長丁場を乗り切るにはちょっと道中スピードの抑えが効いていなかったか、その分終い伸びず保たずということになったのでは。ビデオで見直すと、道中ハミが掛かったままで、岩田jkの手綱も遊びがない様が確認された。スピード能力と長距離適性の両立、その難しさが現れた感じ。それにしてはよく持ちこたえていると思うし、このあたりが非凡なところ。馬場に関しては、絶好のインを終始通ったわけで、これでスタミナを消耗したとは考えにくい。逆にスピードが乗り過ぎで、これで無意識のうちにスタミナを奪われたという見解も、いかにもこじつけで的を得ているとは思い難い。まあここは敗れてしまったが、ただの早熟スピード短距離馬では決してないはずなので、今後への期待は大きい。2000mまでならば、きっと天下が狙える馬になるのではないか。
一方勝者のガバナマイウェーの走り、単勝9番人気での完勝。完全にフロック視する向きもあるようだが、ワシはそれなりの裏付けがあってのことだと判断したい。この後の飲み会で環ちゃんと「フクパーク後の2連勝、殊に前走は古馬B1での勝利、充実度を評価しなきゃいけなかったよなあ。」「それにしてはフクパークがさあ、先行馬なのに先手が取れずブービー惨敗だったじゃない、あれでまだまだ重賞級の格じゃないって決めつけちゃったよねえ。」「何だかんだで実際ノーマークになっちゃったな。」と振り返ったのだが、実に強く、そして非凡な長距離適性の高さを感じさせるものだったかと。道中は終始テツオーの外をピッタリマーク。「逆にテツオーをずっと突っついてたやんか。」とケーズにいさんが振り返ったがまさにその通り。加えて、ビデオを見直して目を惹いたのが、テツオーを御す岩田jkのそれとは正反対に、木村jkの手綱がほとんど緩んだままだったという点。つまりは引っ掛かりもせずタれもせず、馬が存分に能力を発揮していたというわけ。父マルセンガバナーというのも、終わってみればスタミナありそうな血統だとは納得させられる。通ったコースも終始テツオーの外、馬場三分どころの、表面に水の浮いたライン。テツオーの走路よりも厳しい状態であったのは明白、それをも跳ね除けての勝利、評価するに充分ではなかろうか。とまれ、「本物の強さか?たまたまか?」という問いの答えは、今後の彼の走りで出ることとなろう。
2着ユノワンサイドの最後の脚には驚き、そしてそれにも増して「謎」の一語。3コーナーで既手応え怪しくなって、明らかにタれて「ジ・エンド」だというところ、何故に終い100mで脚勢が復活するのか?最後あの余力が残っているのならば、道中の乗り方次第でもっといい結果が出せたのではないか?この走りは全くもって理解不能。どこまでいっても個人的には掴めぬ馬。まあ何はともあれ、福山勢としては久々の楠賞連入。"最後のアラブ王国"の面目は充分保てたのではないか。戦前の期待よりは間違いなく好走しているわけで。
ワシの"ココロの楠賞馬"ボールドヒリュウは4着。やはり距離二四はこの馬には長いか。父オカノヒリュウということで大きく期待を懸け、またソコソコの距離適性も見込んだのだが、どうも父の特徴よりも、母系(母父はボールドマンで半兄ボールドヤングも軽快な先行馬)の影響の方が色濃いのか?しかし戦前の予想紙等の見立てよりは道中掛からずこなせていたと思う。2周目三角坂下ではまだ余力があり、一瞬「行ける!」と思ったが、ここから存外伸びなかったのが残念。結局四角以降は直前のテツオーと脚いろが一緒になってしまい、これを抜くことは出来なかった。「テッちゃんに 一度は勝ちたい 三代目」やなあ。
ホクセツジョージの5着は差し込んでのもの。今日の馬場では明らかに差しは不利。それに勝負の大勢が決してからの差し5着は見どころ的には今一つ。それより何より、勝負所の2周目二角から太さんの手綱は動き通しで、にも拘わらず馬は動かずといった具合で、相当ズブそうな点が気になる。馬格と雰囲気は当初から大物感たっぷりな馬であるので、一応の期待は今後も懸けたい。
エムエスファントムの6着はちょっと期待外れか。まあ単勝2番人気は前述の通り見込まれ過ぎだとしても、それにしてももっとやれたのでは?という結果。ゴリゴリの逃げプロパーではないにせよ、一応は地力ある先行馬、好枠を利し、もうちょっと積極的にレースが出来なかったものか。2周目1、2コーナーから先行馬が一斉にペースを上げていくところで、動かなかったのか動けなかったのか、明らかに後手を踏んだのが気になった。
ホマレエリートは外目外目を先行付けしていたのだが、1周目三角坂前で、掛かり気味の内ダイリンフラワと外ソレユケイチマツの間でパッチン食らったのか、躓いてしまうアクシデント。ここから再度先行集団に押し上げるが最後は距離の壁もあったか、力及ばすの7着。しかしながらこの馬、見直すとなかなか強い。
ソレユケイチマツのブービー、ダイリンフラワの最下位は全く意外。ソレユケは道中の出入りが激し過ぎ、つまり前半何度も局地的に脚を使っていた感じでこれが勿体ない。2周目二角から勝負を賭けるも三分三厘で怪しくなって残り150でバッタリ止まっている。実際のところ、距離の壁が最も高かったのはこの馬なのか。ダイリンは1周目で引っ掛かったのが全て。2度目のホームストレッチあたりでは何とかなだめたものの、2周目向こうで早々にギブアップ。楽に追走して捲り脚一気の夢は叶わなかった。1周目で掛かって一気に上昇してしまったその脚に、捲り脚の片鱗を見よというのもねえ。

おわりに
最終レースも済んで、競馬場を後にする。この後またまた例によって、園田駅前のがんこで飲み会。山ちゃん、ケーズにいさん、京都人さん、まりおっちにラテちゃん、環ちゃんにともちゃん、東海ローレルさんという面々。これに来園は叶わなかった、エチさん、仕事帰りのブリちゃん(サッスガ社会人!スーツでっせ)、仕事を済ませたばかっぱやさんが合流。宴の途中、"毒吐きブラザーズ"が結成された模様だが、ワシには何のことやらサッパリわかりません(爆)。とまれ、予約無しの時間無制限、結構飲んで散会。

勝利がフロックでないことを今後証明せねばならぬ、意外な勝者。当然巻き返さねばならぬ、一敗地にまみれた不動の本命馬。"煮え切りかけた馬"から真の"煮え切った馬"に進化できるか、キミだよキミ。そして、結果が出せなかった他地区馬達は再度いかにして立ち上がるのか――出走馬各々の今後に、例年にも増して宿題を負わせた、そんな楠賞だったように思うが、どうだろう?


2001.6.30 記

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