第28回アラブスプリンターカップ観戦報告
2003.9.5、笠松、1400m
◆はじめに
とにかく地味でマイナーなレースなんである――
そのマイナーさ加減は、昨年や一昨年の同レースの拙観戦記中に記したので、今回重ねては書かぬけれど、ホンマに地味。東海グレードSPIIのれっきとした重賞なれど、11月のアラブ銀杯や12月の銀嶺争覇の方が、レースの格は準重賞で劣るものの、存在感や重みはむしろあるんじゃないかと思われるほどだ。
マイナーである一方で、個性はある。すなわち距離1400m。昨年までは、全国の古馬混合アラブ重賞のうちで、最短施行距離の競走であった。今年は金沢に、同じ1400mの古馬重賞、アラブスプリントカップが新設されたので(その実は1500m戦だった農協牛乳杯をモデルチェンジしたもの)、距離最短タイとなったのだが、それでも数少ない古馬短距離重賞であることに、変わりはない。
さりながら、短距離戦という個性でもって、この競走が注目・脚光を浴びることは、殆どなかったのではないか。むしろこの性質が故、東海古馬重賞戦線において、非常に浮いた存在となっているように思われるのだ。
笠松においては、古馬オープン戦はほとんどマイル以上の距離であり、千四のオープン戦は隣の名古屋で時折施行される程度。従って、仮に千四得意であったとしても、その個性を発揮する機会は乏しい。他の重賞との関連については、お盆開催にして前開催の、笠松オールカマー(距離1600m)の再戦という性格は見出されようし、これは事実。が、問題はその後。大一番たるアラブギフ大賞典や名古屋杯のある正月開催までは相当間があり、この2重賞、共に1900m戦、12月のシルバー争覇も1900m戦である。
というわけでこのレース、時期も距離も、冬場の基幹重賞から切れてしまっている。このレースで好走したとしても、それが冬場の基幹重賞に繋がることは、まずないのである。
◆出走メンバーについて
地味だ地味だと言いつつも、今回で3年連続、現地観戦してしまうワシ。我ながら物好きだと思う次第。「アラブの亡者の自己満足やろが!」それでも結構。
今年の出走馬は内枠より以下の通り。()内は騎手、斤量。ハンデ戦。
ホマレメガミ(濱口、牝7、53k)、ケイエスマジック(川原、牡7、56k)、ナイスヒロシ(湯前、牡6、52k)、ヤマノユーノス(東川、牡3、52k)、トキワダイドウ(仙道、牡6、52k)、アラブドラゴン(安藤光、牡6、53k)、ツルギベンサー(坂口、牝5、53k)、スプランディード(向山、牡4、52k)、ホウシュウトミカワ(尾島、牡8、52k)、クラボクモン(柴山、牡6、54k)
フルゲート10頭だったところ、ホマレメガミが疾病のため取り消して9頭立てとなった。因みにこのホマレメガミ、一昨年のこのレースも、当日の午後になって除外・出走取り止めしており、同一重賞を2度も直前キャンセルという珍記録樹立。
当初は、名古屋の"ザ・夏オ○マ"クールショーと、前年このレースの勝者サマーバースも登録していたのだが、いずれも回避。代わって、A2戦に編成されていたホウシュウトミカワとナイスヒロシが、繰り上がってここに動員された。
冒頭で散々マイナーだと記したが、今年はなかなか興味深い、好メンバーが揃ったと思う。前開催の笠松オールカマーを制したホーエイトップこそ、直後に金沢に転出してしまったのでその姿はないが、それ以外の、現在稼働する笠松古馬アラブの上位勢は、あらかた出てきた感じ。中でも注目馬にして中心馬は以下の3頭かと。
ケイエスマジックは前走笠松オールカマー3着で、連続連対記録は10で途絶えたが、ここでも実績・地力最右翼であることに変わりはない。近走実績そのままに、ハンデも他馬より明らかに重く背負っている。
今年のアラブダービー馬にしてアラブ王冠馬、3歳筆頭ヤマノユーノスは、アラブ王冠以来6週半ぶりの実戦。今回初めて古馬重賞に挑戦することも大きな注目点である。
ツルギベンサーは笠松オールカマーに続き、2度目のA1戦にして古馬重賞参戦。当地のアラブ古馬勢において、短距離でのスピード資質は随一との評価も。大外枠の不利もあって、逃げられず大敗喫した(8着)オールカマーの雪辱を期したい。
◆当日の概況など
職場を正午に脱出。新大阪13時発のこだまに乗って東へ。岐阜羽島で下車して、ここから名鉄竹鼻線で笠松まで。現地には2時半過ぎに到着。
8月の下旬になって、あまりに遅く本番を迎えた今年の夏。9月に入ってからも連日暑かったのだが、この日はそれもひと休み、気温は若干低めでちょっとは過ごしやすい。
到着した現地の天気、空にはもこもこと雲は多いが、その合間から空も見え、日差しもあって景色は明るい。風はあり、日陰でこれに当たっている分にはまずまず涼しい。
馬場状態は良。乾き切ってパッサパサ。馬が駆けると砂埃がもうもうと立ち上がる。当地の馬場の個性で、見た目に砂は浅めなれど、ゴールドレットさん曰く、「これでも、意外にいつもよりは(砂が)入っているみたいやで。」と。
レースにおいては、馬の通るラインはだいたい内寄り。「今日は逃げも差しも決まってるな。内がいいのはここの基本やけどな。」とは、これもレットさんの御教授。
この日は11レース施行で、アラブスプリンターカップは最終第11競走、16時10分発走。
メイン前の第10競走が、A2戦の舟山特別、距離1600m。信頼性高くない先行馬揃ってこれらが人気という、ちょっと難しい一戦となった。ラッキーモラールが果敢に逃げ、4歳牝馬ココロノイズミが2番手堅守。最後の直線ココロノが一旦前に出るも、モラールが差し返して勝利。2着ココロノイズミ。
ラッキーモラールは'00年のアラブダービー馬だが、古馬になってからはイマイチで、最近ではA3に落ちると勝てるがA2では苦しいという状況が続いていた。今回A2既存の上位どころがA1に上がったこともあり、勝利叶った。
◆パドックから発走まで
3時45分頃になって、出走馬が内馬場のパドックに登場する。が、ここで問題が。9レースと10レースの発走間隔は35分ありながら、10レースと11レースとの間隔は30分しかないのだ。おまけに10レースが審議となって確定が少々遅れ、このレースのパドック周回、3周程度で終わってしまった。よって今回の観察内容、甚だ怪しいものであると、予めお断りしておきます(いつも怪しいけれども)。
1番ホマレメガミは出走取り消し。
2番がケイエスマジック。馬体重458kは-4k。前走は適正値より明らかに重かったので、この下げ幅は妥当かと。前走時より多少痩せた感じもするが、それでも太い。が、ハートフルG2さんは「アバラ見えてましたよ。緩いんでしょうか?」と。身のこなしは相変わらずキビキビとして元気いっぱい。歩みも力強い。
3番ナイスヒロシ。これもキビキビとした歩みだが、馬体の締まりは今一つ。前走6月26日の東海グローリ4着。3開催の休み明けである。
4番がヤマノユーノス。脱糞しながら登場。馬体重は前走から+4kの478k。元々腹回りだけがポコッと太い体型だが、今日はフォルム全体がドカンと太い。レース間隔が開いたからか、成長分なのかは不明だが、ちょっと重そう。歩様がかなり硬くて、特にトモの送りが妙にがに股。そのココロ、レットさんが「キン○マ腫れとる、こんなん夏負けやて。」とズバリ。いつも煩く見せるクチではあるが、終始鶴首でガチャガチャと、細かい動きの目立つ周回、相当イライラしている感じ。
5番トキワダイドウ。胴が詰まり気味な、重厚でどっしりした馬体。いかにも短距離戦で良さそうなスピード逃げタイプ。歩みは力強いが歩幅は狭い。前走前開催のA2戦を、2着に9馬身差つけ逃げ切り圧勝。今回初めて古馬A1戦出走となる。
6番アラブドラゴン。胴長の大型馬だが、姿はスカッとしており、今日は結構カッコイイ。毛艶も上々。覇気なく大人しい気配はこの馬なりか。前走笠松オールカマー6着。安光騎手とは今回初コンビ。
7番がツルギベンサー。馬体重439kは前走から9k減だが、ガレた印象は皆無、スッキリ作ってきた感じ。「『細い』とか『重厚感欠ける』とかいう評価あるけれど、これはこれでエエ感じやろ。」とレットさんも。毛艶もいいし、気分良さそうにキビキビ歩いているのも好感。
8番スプランディード。あのムーンリットガールの仔。意識して観察するのは、昨秋の帝冠賞以来2度目。「意外にガッチリしているなあ。」というのが今日の印象。首差し、胸前、胴回りと、前半身の実入りと張りは目立つ。トモの踏み込みは浅い。前走前開催のA2戦5着、古馬A1戦は初挑戦。
9番ホウシュウトミカワ。馬体重484kは-4kなれど、馬体の作りはちょっと緩いか。8歳牡馬で、歳も歳だが。踏み込みは浅い。前走前開催のA2戦で6着。最近ではA1で走ろうがA2に落ちようが、そんなこと不問で着外連発。
10番クラボクモン。チャカチャカしたところはあるが、その一方で歩みはあまり元気がないような。馬体重は前走からさらに3k減って415k、やっぱり軽い。前走笠松オールカマー9着。今回は最近の主戦柴山騎手に手が戻った。
騎乗命令。ヤマノユーノスは、東川騎手が跨ると一層煩くなった。トキワダイドウは、仙道騎手が跨るとさらに気合いが乗った。
そして返し馬。ツルギベンサー、アラブドラゴン、スプランディードの3頭は、一角方向にゆったり駆け出し、そのまま待機所に。他馬は四角方向に。うちクラボクモンは、そのまま逆回りに待機所に直行。それ以外の面々は四角で反転して返し馬。ケイエスマジックは、頭を、時に振り上げ時にガクンと振り下ろすバッタバッタの仕草ながら、ガンガン突っ走る。ヤマノユーノスも強めのキャンター。テンション上がっているからか、口向きがかなり悪い。トキワダイドウは完歩大きく元気いっぱいのキャンター。
ケイエスマジック、返し馬
「ぶっ飛びだぜ!」
予想。実績断然なのはケイエスマジックだが、「いい加減ピーク越えたか?」とも思われ、またハンデ56kは背負い慣れているものの他馬と差があるので、今回は押さえまで。中心視したのはツルギベンサー。この距離ならば強かろう。そしてヤマノユーノス。気配は感心しないのだが、ワシはこの馬応援しているので。斤量52kは魅力、ケイエスマジックと4k差もあり、ベンサーからも1k軽い。というわけで、この3頭の馬複を。厚く買ったのはベンサー−ヤマノ。加えてトキワダイドウを。この馬、これまでA2では、ツルギベンサーに頭完全に抑えられていたのだが、前走の圧勝と今日の好気配は強調材料。薄くヒモに。
◆レースなり
さてレース。距離1400mのスタート地点は4コーナーのポケット。
ゲートが開く。内ケイエスマジックやトキワダイドウが好発。ツルギベンサーは発馬は並なれど、押されて前に出てくる。そして程なく、トキワダイドウを抜いて、その前をカットするような格好でラチ沿いに取り付き、これで先頭奪取。2番手四分どころにトキワダイドウ。ケイエスマジックが内で3番手。スプランディード、発馬はベンサーと同等ながら、無理には行かず、外ですんなり4番手好位。この内にナイスヒロシが追走。問題はヤマノユーノス、若干アオってしまい出負け気味の序盤。ソコソコリカバーしてまずは6番手内から。クラボクモンは外目7番手、この馬にしてはまずまず追走出来ているか。内でアラブドラゴンが続き、殿はホウシュウトミカワ。千四戦だけあり、サスガに後方勢も序盤からちんたらしてはいない。
1周目のスタンド前、先頭ツルギベンサー
2番手大流星がトキワダイドウ
1、2コーナーから向こう正面へ。先頭変わらずツルギベンサー。2番手トキワダイドウも単走、その差1馬身半弱、各々マイペースか。ケイエスマジックも単走で3番手にどっかりと。ヤマノユーノスが若干位置を上げたか、内からスプランディードに並び掛け3列目となる。
先団は相変わらず程良いテンション保って3コーナーへ。ツルギベンサーは引き続き快走する。そしてケイエスマジックが腰を上げる。外からトキワダイドウに迫る。ヤマノユーノスも追い上げ開始、スプランディードを置いて単騎4番手に。前とはちょっと差はあるが、何とか寄せようかと。これを追走してアラブドラゴンが、そしてクラボクモンが続く。スプランディードは遅れたか。
そして最後の直線。ツルギベンサー、インコースをスイスイ逃げ込む。四角周回で脚の鈍ったトキワダイドウを外から交わして、ケイエスマジックが2番手に上昇。大外回してヤマノユーノスも懸命の差し込み。アラブドラゴンも五分どころ、よく付いてきている。
最後の直線、逃げ込むベンサーにケイエスが迫るが・・・
大外にはヤマノが追い上げてはいるが・・・
が、勝負は前の2頭。ケイエスマジックの足取りも確かなれど、ツルギベンサーの脚いろに衰えはない。結果、逃げ切り成功のVゴール。終いの着差は1馬身なれど、印象としては余裕をもっての完勝であった。
2着ケイエスマジック。ヤマノユーノスは2馬身差の3着まで。アラブドラゴンはアタマ差4着まで迫っていた。トキワダイドウは終いちょっと遅れて2馬身半差で5着。クラボクモンは4馬身差の6着。ホウシュウトミカワは最後の直線だけ追い込んで7着。スプランディードは好位維持出来ず8着。最下位ナイスヒロシ。
ツルギベンサー、逃げ切ってゴールへ
念願の古馬重賞初勝ちだ
◆振り返って
勝ち時計1分29秒1。この日の千四戦は、サラのC級下位条件ばかりだったが、全て1分30秒以上かかっており、このタイムはこの日最速。まあ、淀みないとはいえ、常識的な逃げ競馬した馬が勝ったので、無茶無茶なタイムではない。レコード駆けとなった、昨年のこのレースとは違って、ね。
というわけで、ツルギベンサー、お見事な競馬。終始スイスイ先頭走っていて、危なげが全然なかった。これが古馬重賞初勝利。サスガに短距離戦は強い。個性発揮でその個性に合う重賞、キッチリ獲った。
ところがレース後の表彰式の後、坂口騎手にサインお願いしつつ、「速いですねえ!」と振ると、坂口騎手曰く、「でもねえちょっとスタートが・・・」と、意外にも歯切れ悪いお応え。よくよく考えると、この馬、二の脚以降の巡航から終いまでは速いが、発馬は確かにスカッとは出ないかな。今日も前走のオールカマーも然り。「しかし坂口の逃げってのもキャラじゃないよな。どうしたって後ろから追い上げてくるイメージだもん。」(byおーたさん)という、騎手の個性は別にして、ね。
さて、問題はこれから。マイル戦までならお任せだろうが、古馬オープンの主力たろうとするならば、千八以上の中距離戦をこなしていくことが必須。後でおーたさんとも、このあたりを言い合った次第。
ケイエスマジックは2着。これを、「惜しい」と見るか「不甲斐ない」と見るかは、意見の分かれるところだろうか。ワシは前者で、現状よくやっていると思うのだが。「(調子の)峠は越えてるはずやけど、それでも2着にはしっかり来るよな。この2着残るところがエエんや。」とはレットさん、ベンサー→ケイエスの連単、一点買いでGet、サスガ!。
ヤマノユーノスはなあ。「やっぱり出遅れたやろ。これがあるからアテにならんのや。まあ、今日のこの出来この距離で、よう3着に来たとは思うで。」とはレットさん。ワシも同感。とにかく、出来はまだまだだったと思う。ハンデ52kでもあり、何とかしてほしかったけどれども。この馬、レース間隔開くと、実戦勘の鈍りが、気性面により出ると、個人的には思う。戦前気配もレースぶりも、どうも落ち着きを欠くような。
アラブドラゴンは、馬券には絡めなかったが、距離と近況思えば充分好走だと思う。安光騎手が後半遅れぬよう積極的に動かしていたのが印象的。
トキワダイドウ、好調さと距離を味方にしても、やはりA1の壁は厚かったか。健闘してはいると思うが。そう思うと、ツルギベンサーの非凡さ加減は、一層際立つ。
クラボクモン、序盤中盤は、前走に比べれば追走出来てはいたかと。三分三厘上昇したが、しかし終い伸び切れていない感じだった。本当の復調にはまだまだか。
スプランディード、現状でA1は家賃が高い感じ。先行したいのか、好位・中団差しがいいのか、戦法面での迷い抱えたまま、上位に互していこうと思っても、やっぱり甘い。
◆おしまい
地味重賞の短距離祭も、レースの個性に相応しい、また華のある素質馬が勝って、ちょっとは目を惹くものとなったかと。
あとはツルギベンサーの、今後の躍進に期待するばかりだ。大一番制したその時には、「今じゃ無敵だけど、あの時ようやく古馬重賞初勝ちしたんやで。それから云々」などと、是非に思いを馳せたい。こうなると、彼女の馬生共々、このレースの記憶、輝いて残り続けるから――な!
因みに、ここでも牝馬が勝利。2003年夏、残暑に併せてか、「夏は牝馬」の傾向、依然継続中なり。
2002.9.14 記
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