第52回日本海特別観戦報告

 2000.8.15、益田、2200m

日本海特別――年に2回、正月と夏に施行される、益田最高賞金(1着100万円!)を賭けた、名実ともに益田頂点決戦。

プレイバック・益田上半期2000(含、非現場的記述)
前回つまり今年正月の当レースは、昨年末の益田大賞典を勝利し益田4歳最強を決定づけた、ニホンカイローレルの四番仔にして次男、ニホンカイプリウスが、前々回(昨年夏)の覇者シリウスファイターや2着キャプテンシーを下して優勝。益田最強を襲名。2着もプリウスと同じ明け5歳ローレルヒロが入り、新時代の到来を告げた形となった。
その後2月の、益田勢が中津に遠征した益田・中津交流ガーネット特別においてもプリウス快勝。プリウスはその後佐賀セイユウ賞に挑戦するが、ここではさすがに足らず、ブービー大敗。しかしこの間、益田筆頭プリウス次位ヒロの図式は盤石。
事件はセイユウ賞後のこと。プリウスが佐賀転出(2月の時点では福山転厩とのことだったのだが)。こうなると目の上のたんこぶがいなくなったヒロの天下、その見込みに違わぬ活躍。脇はシリウスファイター(11歳!)やキャプテンシーが相変わらずがっちり。
3月4月、益田は全国から脚光を浴びる。すなわちニホンカイキャロルの平地勝利数日本新記録、そして引退。さらにまほろば賞の開催、ノアが才能の片鱗を見せ始める。
5月連休、4歳決戦、益田さつき賞にてマルJ筆頭ノアと補助馬筆頭牝馬イッテンヨカイチが激突。結果ノアがヨカイチを5馬身ち切って快勝。ノアは6月勇躍福山瀬戸内賞へ、1番人気を貰うも超ハイペースの先行争いに巻き込まれ、愚直に走りすぎ惜しい2着敗退。一方ヨカイチは益田補助馬の晴れ舞台益田優駿を快勝。両頭とも4歳初夏にして古馬A級編入。
佐賀転厩のプリウスが何と、かの地で一走もせずに益田に帰ってくる。「ローレルヒロはプリウスに絶対勝てない、それが益田の定説」という有り難くない風評に再び晒されて、ヒロにとってはいい迷惑。しかしプリウス、6月にはキャプテンシーに刺され(もとい差され)取りこぼし、状態的にはどうなのだ?
盆の日本海を睨んで、このままの勢力関係であれば、図式的には正月の持ち越し、プリウスvsヒロであったところ、転機は7月9日のA級最上級クラス、黒松特別。初めてここに格付けされたノアが、シリウス以下を問題にせず千六戦を逃げ勝利。古馬最上級と互角以上に渡り合えることが実証されたノア、日本海獲りに名乗り、そして狙うは先輩達を差し置いての、益田最強の称号。
ということで、プリウスvsノアvsヒロ、三強対決の様相を呈し、決戦の2200m。

集結!遠征諸氏
この益田最大のレースを見届けるべく、各地から御歴々が益田に集結。
ワシは疲労軽減と日帰り敢行のため、今回は贅沢をする。
6:30姫路からひかりレールスター→小郡8:10着、山口線特急「おき」8:52発→益田10:29着。
益田駅に降り立つと、電設の男(旧ともろう)さんとディープさんの姿。そしてお初の南関KKKさん(同じ「おき」にて)。皆さん駅前場外「ギャロップ益田」に顔を出す。ともろうさんとディープさんはもりも先生の車を待っているとのこと。KKKさんとワシは一足早く路線バスで競馬場へ。「この益田のバスのシステム(路線バスの競馬場最寄りのバス停で、運賃パスで下車すると、警備員のおっちゃんがバス停に立っており、バスの整理券を渡せばOK)は何度使っても馴染めんなあ」などどKKKさんと車中語らう。そして競馬場着。
今回ワシは内馬場(駐車場)側から入場。目的は内馬場にある、外向け発売所で馬券を買うため。「ギャロップ益田」で発券した馬券には「益田駅前場外」の旨が印字される。しかし外向け発売所発券分は、ただの「益田競馬場」との印字、目論見違い。畜産フェアだか何だかで、入場者にアイスクリーム引換券を配っている。引換券で貰えるのは、「グリコジャイアントコーン」はじめ、定価120円相当のアイスクリーム!1000人以上の入場者ほぼ全員に行き渡るだけ用意されていた。入場料100円はアイスクリーム代やんか!何と太っ腹、益田競馬!!
競馬場に着いてスタンド上方の空調効いたエリアに入ると、先に入場したKKKさんと一緒に、yamachanさん、そして"益田キーマン"「Loveノア!」のふささんが立っておられる。ふささんは早速ノアネタ開陳。yamachanさんとは佐賀セイユウ賞以来、相変わらず渋い。程なく場内に入場してくる、もりも先生の姿発見。何故かひとり。「あれ、あとの2人は?」「えっ?!」「益田駅で待ってますよ、連絡済みのつもりみたいでしたけど」(云々かんぬん以下略)ということで慌ててもりもさん、迎えに益田駅へ。どうにかこうにかでともろうさんとディープさん、めでたく来場。
やや遅れて栃さん、そして途中より同行だったらしいDaisukeさん(お初です)。
天気晴れ、湿度が割とあるのか、かなり濃密な熱気。暑い!暑さ逃れに昨年末竣工した特観席(料金1000円)に入る。新しいだけあって非常に綺麗。席の前後間の段差もかなりつけられていて観やすいし、座卓の前後の幅も余裕があるし、シートはプラスチック製ながらも体にフィットするよう窪みがつけられている。快適空間。ちょうどゴール板前を見下ろす位置にあたるので、観戦場所としてもグー。勿論空調完備。
馬券戦線は例によって難解。既に前半の枠連レースから4桁続出。予想紙通り素直に決まらぬシビアな状況。当日の馬場状態はバサバサの良、しかしかなり軽い。展開的には圧倒的に先に行った馬に有利、前が止まらない。それに走破時計が概して速い。この辺りを予想ファクターの中心に据えなければ・・・そして枠単レース1つ目の5レースでようやく15倍をGet。種明かしは逃げ馬と時計上位馬の狙い打ち。あとは日本海で勝負を賭けるべく、目減り、ジリ貧を避けて"やらず"。

※レースのみに興味のある方はここからお読み下さい
さて、日本海特別は第10レース、出走メンバー、内枠より順に、ニホンカイプリウス、ノア、トミノゴールド、ローレルヒロ、リップスポイラー、ヤナノリボン、サルタシーザー、エルシドウイナー。以上8頭。シリウスファイターとキャプテンシーの姿がないのがDaisukeさんならずとも残念。
9レースのパドック中から、装鞍所に日本海出走の面々が入る。その待機馬房、1枠プリウスと2枠ノアは隣同士、そしてその馬房はスタンド側を向いている。そのため特観席パドック側(コース側の裏手)から、装鞍所待機のプリウスとノアの姿が見下ろせる。プリウス右前脚にピンクのバンテージ、気になるのかずっと右前で前掻き(このバンテージ、Daisukeさんよりいただいた、6月にキャプテンシーに差されたレース時の写真にも写っている)。ノアはプリウスに比べれば大人しいが、ふささん曰く「立ち姿の前脚の形がいつもより悪い」とのこと。ふささんはホットラインで入ってくるノア情報に心揺り動かされどおしの1日。その情報の骨子は「ノア状態悪し」。(ノアを巡るこの日の顛末は、ふささんのページ掲載のレポートにて、是非!)
ゼッケンと鞍を装着し、パドック入りが間近になった頃、ノア1頭が馬房を出て、装鞍所前で引き運動。この一部始終を特観席で目撃した栃さんがパドックに下りてくる。そして開口一番「ノアずっと回してる(引き運動のこと)もんな、あれ絶対コズんでるか何かあるよ」。そして馬体重発表。ノアが439kで何と-6k。ふささん思わず「やっぱり駄目だあ!」と天を仰ぐ。「4月の頃は460kあったもんね、いくら何でもねえ」とワシ。ふささん曰く「飼い葉の食い減ってないのに体重落ち続けてるらしいんですよ」。ノアの行く手、一層暗雲。

いよいよパドックに出走各馬登場。
1番ニホンカイプリウス。前述の右前のバンテージの件を除けば文句のない状態。馬体重482kの前走比-5kも夏場としては至極妥当。いつも通り悠々周回。適度な気合い、馬体の張り、毛艶共に文句なし。栃さん共々「ホントプリウスはよく見せるよ」「シナノリンボーって感じ!」(プリウスって不思議な馬で、見る人によって「よく見せる」派と「馬体重相応に見せない、冴えない」派に、感想が二分。両極端。)
2番はノア。マイナス体重通り、腹が上がってアバラも浮き気味。目の周りに隈、いかにも夏負け、ガレている。それでも気合いだけは上々、時折厩務員さんに顔を預ける仕草。今日はDハミではなく枝ハミ着用。枝ハミの必要性(馬の制御力が増す)とノアの体調・精神状態との相関関係はいかに?
4枠にローレルヒロ。悲願のプリウス越えにいざ。いつもならば益田所属馬随一の馬体の見栄を誇る彼。さて今日は?馬体の作りは上々なれど、毛色が明らかに落ちている。夏場の体調と関係ありか?張りはまあまあ、歩様は若干硬いか。ともあれ、ワシの中でのヒロの印象の基準値よりはマイナスイメージ。
7番"ミスターロートル"サルタシーザー。この馬も既に10歳ながら、見た目的には衰えを感じさせない。艶も上々。「もう昔からこんな感じっすよね」とディープさん。まあ今日の勝負的には厳しいだろう。
他の各馬も馬体の艶、張りいずれも良好。通常ならGoodLookingはヒロの独壇場なのだがそのヒロが埋没するくらい他馬の仕上げも良い。この季節、益田所属といえどもオープン馬の仕上げ、侮り難し。逆にノアのぎりぎり感がいやがうえにも目に付く。
ニホンカイプリウス(57KB)
ニホンカイプリウス、パドック
右前脚のピンクバンテージが・・・
ノア(55KB)
ノア、パドック
逆光にパツキンが輝く

そして本馬場入場から返し馬へ。プリウスは入場するとハミにもたれるように前方につんのめった姿勢に。この仕草、以前も目撃したので彼の癖か?
各馬一旦ダクに下ろして三々五々キャンターへ。ノアはキャンターの群れの先頭で、続いてプリウス。シーザーはダクで、ヨロヨロと千鳥足っぽいところが笑える。8番エルシドウイナーが首の低いフォームで個人的に好感。

さて、予想。これは事前に決めていたこと。ズバリ「頭プリウス−ひもヒロ一本!」。ふささんには申し訳ないが、5歳二強と四歳ノアとではまだ地力に差があるのでは?という見解。そして二強とも2200mは得意のクチ、ノアは長距離適性疑問。それにですね、「ノアも確かに強いけどユーノスと同レベルと思ってもらっちゃ困る、あっちは不世出の名馬!」これが本音。勿論ノアもワシ好きやけど。

いよいよレース発走。益田二二、年に2回、日本海特別にのみ施行の距離の発走地点は4コーナー、ここからぐるり2周、よって正面スタンド前を3回通過。
各馬スタート。一団の発馬から、やはり秋元ノアがハナ。2番手その外リップスポイラー。沖野プリウス1枠から早々に外目へ、3番手。この後ろに荒美トミノゴールドそして岡田ローレルヒロ。逆光の中正面スタンド前を通過、この時点でノアと後続はまだつかず離れず。
1周目1、2コーナー、ここからノアが、リード的にも見た目のフォーム・ピッチ的にも明らかにペースアップ、後方集団との差をみるみる広げ、6〜10馬身程は引き離して大逃げ敢行。長距離ということを考えれば明らかにオーバーペース。「速いよ!」「行っちゃったよ」挙がる声。2番手リップスポイラーがただ1頭向こう流しまでは追走いや深追いしたが、危険と思ったかついていけなくなったか、3コーナーでは後続に吸収される。ここでプリウス、後方馬群の先頭キープでレースを運ぶも、ノアのハイペースにはいささか戸惑い気味。向こう流しで鞍上沖野がちょっと手綱を押っつける仕草を見せる。
ところがどっこい、3、4コーナーを回ってきて2度目のホームストレッチに差し掛かると、ノア、気が済んだのか折り合ったのか、ばっちりペースダウン。3馬身程のリードで隊列を引っ張ってゴール前通過。2番手に早くもローレルヒロ。我慢できずか、早めの勝負か?その外プリウス折り合いがっちり。リップスポイラーはそろそろご苦労さん。
そして2度目の1、2コーナー。プリウスがヒロを無視して満を持して地力で前に、これで2番手、先頭ノアとの差は2、3馬身か。ここで一気に勝負!と思いきや、慌てずじっくりという算段か、この間隔をキープ。
向こう流しから3、4コーナー、ノア、プリウス、ヒロの隊列は変わらず。それ以降は遙か後方、とっくに圏外。3番手から追いすがったヒロも結局三分三厘で脱落。ノア、プリウスは足並み乱れず変わらず疾走。いよいよ2頭の一騎打ち。
最後の直線、内で逃げるノア、まだ逃げる、プリウス外から追いすがるも、届かない届かない、結局勝負所の2周目道中の間隔、2馬身キープのまま、「最後は両者脚色同じになって(by KKKさん)」ノア、4歳にして益田筆頭襲名のVゴール!ディフェンディングチャンピオンのプリウス、王座防衛ならず2着敗退。プリウスからさらに6馬身遅れて3着ローレルヒロ。
ノア、直線(47KB)
ノア、直線ゴール直前
画像の右端に写る鼻先がプリウス
ゴール(51KB)
ノア、ゴールへ
プリウス及ばず

「ホントにあれで逃げ切っちゃったよ〜!」「何なんだあの馬は!?」「あいつやっぱり強いわ」スタンド前の表彰台で観戦していた皆さんの口をついて出る、レース展開、そしてノアへの驚嘆と賛辞。もりも先生もディープさんもワシも、二の腕に鳥肌が立っている。ふささん「今が人生最高の歓喜の時」といったところ。
ここで冷静な判断に引き戻してくれるのが栃さん。スタンドから下りてきてこう評価。「うーん、でもなあどうもメイチのレースって感じじゃあないんだよなあ・・・」ワシも思い当たる節あり、で、こう返す。「確かに2周目の1、2コーナーでプリウス動いた時、ホントは一気にノア潰しに行かなきゃいけなかったよね、ちょっとかわいがりすぎたかな。」「そうだね、ちょっと沖野が舐めたかな?」「うんうん」
「たられば」は慎まねばならぬが、もしここにシリウスファイターとキャプテンシーが出走していたら、どうか?昨今は勝ち負けまでは難しいシリウスだが、先行早め抜け出しと、非常に綺麗にレースを運ぶ馬だけに、彼がノアの乱ペースに対峙したとすれば、もう少し違った展開があったやも。キャプテンシーは暴れ馬だけにアテには出来ぬが、その気になったときの差し脚は驚異。プリウスからすれば後方集団に対しての警戒感が違ってこよう。誤算はヒロの案外さ。彼の後方からのプレッシャーがキツければ、プリウスのレース運びもこれほど安穏とはしなかったろうに・・・
とは言うもののこのレースは凄い!あんな乱ペース生み出して、それで潰れず逃げ切ってしまうとは・・・それも夏負け&体調不良が誰の目にも明らかな馬が。やはりノア、ただ者じゃない、それに間違いなく強い。ワシは自他共に認めるプリウス派なれど、この日のノアのレース振りはまさに超絶パフォーマンス。脱帽です。これまでは尾花栗毛で細身の容貌から「王子様」「美少年」といった、どちらかといえば線の細い、甘いキャラでったのだが、この厳しいレースを乗り切り、ぐんと逞しさが増した印象。

益田の重賞表彰式は、スタンド柵沿いにしつらえた、仕切りも何もない表彰台にて。ノアの関係者、そして秋元騎手に対し、地元のファン、それも相当数のお客さんから暖かい祝福の声が起こる。「地元と共にある益田競馬」がよく現れて、いい光景。そして表彰式後の口取り撮影。スタンド柵沿いで撮影しようとカメラを構えていると、「そこじゃ大きく撮れないでしょ、入って入って」と、関係者の女性(恐らく岡崎調教師の奥さん)が、コースに招き入れてくれる。そこでスタンドとコースの間の一般道を横切ってダートコースへ。これがコース初体験。思いの外サラサラとした砂。バサバサの良馬場なれど、人間が歩く分には脚は埋まらない。こうしてご厚意でコース上で口取りを撮影。日本海特別には優勝レイはない。しかしそれでも馬と関係者の誇らしげな姿には変わりない。

最終11レースを前に、帰路の電車の時間が迫っているので競馬場、そして皆さんの環を辞去。yamachanさんとKKKさんはふささんの車で小郡まで。石見空港より飛行機にて帰路の栃さんも同乗。もりも先生の車組、ともろうさん、ディープさん、Daisukeさんは場内で見失ってしまい、挨拶も出来ずに失礼。ワシひとりタクシーにて益田駅へ。
帰路は益田17:48の「おき」→19:21小郡着、19:36レールスター→姫路21:16着。
益田駅のホームで待っていると、そこにディープさんとDaisukeさん、ワシが行方不明になってちょっと騒ぎになったらしく、恐縮。お二方は指定席を取っていらしたのだが、ワシに合わせて自由席に一緒に乗車して下さった。車中ではワシなど足下に及ばぬ地方競馬行 脚の濃〜いネタ。凄い。小郡からは各自それぞれ。新幹線での福山駅停車時の車窓の光景、芦田川(福山競馬場のバックストレッチ向こうを流れる川)の花火大会、まさに大玉連発の時、ちょっと得した気分。てなわけで首尾よく帰還。

プリウス派としてはやや残念な結果なれど、ノアの恐るべきレース振りに立ち会えて、そして"益田の一番熱い日"に居合わすことが出来、満足。
そして明日、摂津盃、この日の衝撃に優るとも劣らぬ激闘、興奮のレースに立ち会うこととなる――

2000.8.20 記

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