第82回名古屋杯観戦報告

 2002.5.3、名古屋、1900m

はじめに
名古屋競馬のゴールデンウィーク開催、その目玉と問われたら、サラブな方々ならば「かきつばた記念!」と答えるだろうが、我々アラブな人間にとっては、何はともあれ「名古屋杯!」なのである。
その名古屋杯(春)、正月開催の名古屋杯(冬)共々、名古屋競馬のアラブ古馬重賞のうちでただ2つのSPI競走、名実共に最高峰レースである。また、アラブスプリング賞(名古屋SPII、今年新設だが実態は年末のキャンドルライト賞が施行時季を変えたもの)→アラブチャンピオン賞(笠松SPI)→クリスタルカップ(名古屋SPII)と続いた、春の東海アラブ古馬重賞戦線のクライマックスと位置づけられる競走でもある。東海地区では、これ以降晩秋まで、パッとするアラブ古馬重賞がない(夏場に笠松オールカマーやアラブスプリンターカップ、ケンタウロスカップがあるがいずれも地味)ので、その点からも、総決算ムードが濃厚となる。

当日の概況、そしてメインレースまで
競馬場には2時過ぎに到着。天気は晴れだが雲も多く出ている。風が強く、そのせいもあって比較的涼しい。
馬場状態は良。馬が通ると砂埃が立つのでかなりバサバサではあろうが、砂がムチャムチャ深いようにも見受けられない。比較的軽めのよう。ということもあってが、先行勢に泣きが入らぬため、極端な差し・追い込みは不利であるとのこと。

この日は第9レースと第10レースの間に、金沢競馬のメインレースの場外発売がある。皐月特別、アラブ系A2戦、距離1700m。ここに、今季開幕以降A1で2戦するも8着6着と振るわず、今開催A2に陥落して翌々日の重賞黒百合賞に駒を進められなかった、あのダイリンフラワが登場。
レース。前開催A2戦で2着だった人気の一角ユキノキングが逃げるも、ダイリンフラワが好位から2周目バックでひと捲り、三角先頭で押し切って圧勝。好調時の豪快な走りが蘇った。先行したダブルシックスが粘って2着。「ダイリンフラワ、良化してたってことだろうね。これでまたトップクラスに戻って活躍して欲しいところだよね。」と栃さんらと語らう。「うわっ、ユキノキングは切ってダブルシックスちゃんと押さえてるのにダイリンフラワ買ってへんわ。ここで走るか、全く。」とはディープさん。この同志、素質馬に目をつけるのも早いが見限るのも実に早い。「ホンマ、早く見限り過ぎたわ・・・」とは本人の弁。

名古屋杯、出走メンバーについて
さてメインレースの名古屋杯。この日の最終第11競走に組まれている。出走馬は内枠より以下のフルゲート12頭。()内は騎手、斤量。
ラディガブライト(河端、55k)、ブラウンダンディ(安部、57k)、ケイウントップ(横井、54k)、ゴールドランプ(兒島、54k)、マリンレオ(山田、57k)、ショウリイットー(坂井、53k、笠松)、ヘイセイチェッカー(宮下、53k)、トモシロヒット(柴山、55k、笠松)、ヘイセイエクセル(宇佐美、52k)、クールショー(満田、54k)ディアルレーブ(柴田、52k)、ビソウウエスタン(平田、58k)
笠松からショウリイットーとトモシロヒットが参戦。牝馬はショウリイットーとヘイセイチェッカー、ヘイセイエクセル、ディアルレーブの4頭。ハンデ戦だが負担重量は獲得賞金を踏まえて決められた数字とのこと。おかげでマリンレオとブラウンダンディの57kは解るにしても、背負い頭がかつて上山の王者だったビソウウエスタンになってしまっている。

前走アラブチャンピオン賞の時点では、ここへの出否は未定だったマリンレオが、コンスタントなローテーションを守ってか、やはり姿を見せた。ここ1年の戦績に関しては、アラブギフ大賞典アラブチャンピオン賞の観戦記にて記しているのでここでは割愛するが、今日は今月26日に出走を予定している、全国交流福山タマツバキ記念への、最終ステップとなる。
この無敵の東海王者の登場で、勝ち馬を予想するという楽しみはなくなったのだが、次位争いという点においては、好メンバーが揃ってくれたかと。東海先代王者にして、名古屋杯は冬春合わせて4勝しているブラウンダンディ、ただし近走は今一歩。東海次位筆頭を狙う位置までのし上がったものの、肝心なところでポカも多いラディガブライト。そして前走クリスタルカップにて、この2頭を破って悲願の重賞初勝利を遂げた、宮下瞳騎手鞍上ヘイセイチェッカー。前走A2戦で、デビュー以来17戦無敗ということで有名だったペアーマッチに土を付け、引退を決意させるに至らしめたという4歳馬ケイウントップ。ここらあたりが注目馬か。

パドックから発走まで
パドックに出走馬が登場する。
1番がディガブライト。首をチャッチャと上下しつつ、パドックの大外をスタスタと周回。いつもながらキビキビとした身のこなし。馬体張りも文句なし。「ラディガブライトはホンマいっつ見ても良く見せてるわ!」とディープさんも感心。しかしながら戦績がそれには直結しないようで。前々走アラブチャンピオン賞をマリンレオの2着というのはよしとするが、前走クリスタルカップではブラウンダンディを差し置いて1番人気となるも、4着に飛んでみせた。
2番がブラウンダンディ。今日はメンコが茶色、この姿は今回初めて目にした。ゆったりとした周回だが、トモの力感が絶好時に比してイマイチ。馬体が全体に細く、小さくなった感じ。幅も心なしか薄い。このあたりは"東海の好漢"おーたさんや栃さんディープさんも同一見解。「1年前なら、ブラウンがラディガよりもちっこく見えるなんて考えられなかったよな(馬体重はブラウン486kでラディガ484kと両者大差なし)。」と思うワシ。前走はクリスタルカップでヘイセイチェッカーを差せず2着。
3番ケイウントップ。割とコロンとしたコンパクトな馬体。灰色芦毛でベルベットのようないい毛並。キビキビとした動作でこれは好感。「なかなかいい馬ですね。」とおーたさんに振ると、曰く「でもいきなりここで走るのは苦しいかな。」と。因みにこの馬、昨夏のケンタウロスカップの勝者、一応重賞ホースである(とは後日知った)。
4番ゴールドランプ。馬体重498kと大柄だがヒ腹がやや薄く、胴長ということも相まってスリムに見える。大人しく周回しているが平凡か。前走クリスタルカップは出負けで後方ママの8着だったようだが前々走は1着。ムラ駆け先行馬、好走できるかは折り合い次第とのこと。
そして5番がマリンレオ。馬体重464kは前走アラブチャンピオン賞から+1kと微増しただけだが、前走時よりはゆったり見せている。まあ前走はこの馬にしては落ち着きがなかったわけで、今日ののんびりじんわりした気配こそが本来の姿か。毛艶も問題なく、トモには銭形が浮き出ているほど。「去年のセイユウ記念と比べたら格段に堂々とした馬体になってるねえ。」とは、同馬を目にするのはその時以来の環さんの感想。
6番ショウリイットー。アラブチャンピオン賞5着の後、ここに出張。のんびりと周回。毛艶も馬体張りもいい。馬体重514kは前走比+2kだが、地元笠松で目にした時よりも胴回りはスッキリと映る気がする。まあこれは笠松と名古屋の、パドックとの距離感の違いのせいか。
7番がヘイセイチェッカー。明るい栗毛の毛艶は最高。張りもあってピカピカの馬体。胴の実入りも充分。好調ぶりが一目瞭然。「冬毛気味で毛艶サッパリだった冬の名古屋杯の時と大違い、まるで別馬だな。」とディープさん。「牝馬らしい馬体だなあ。」とは栃さん。丸みのあるフォルムを評してのことだろうと勝手に解釈する。
8番トモシロヒット。他馬がパドックを2周くらいした後、最後に登場。何のことはない焦れ込みバフバフが故。登場早々尻っ跳ねを繰り返す。終始チャカチャカ。馬体重486kは前走比-6k、このところずっと目方が減り続けているが、この数値はこの馬にしては細過ぎ。現にヒ腹が上がっているしトモのボリュームも失せている。前走は笠松の準重賞花吹雪争覇で4着。
9番ヘイセイエクセル。コンパクトな馬格で胴回りがかなり太い体型。地味なルックスだが毛艶はいい。じんわり無駄のない身のこなし。前走はクリスタルカップ10着、近走ではA1とA2の中間のような格付けだが良積はなし。
10番クールショー。黒鹿毛の艶はなかなかで精悍に見える。皮膚が薄いのか体表に銭形が浮き出ている。ちょっと見た目は堅いか。3走前の3月5日が半年の休養を明けた緒戦。以降12着6着3着と、成績だけを見れば上昇傾向。
11番ディアルレーブ。前走クリスタルカップ5着だが、これは5ヶ月の休養明け緒戦。休養前は3連勝しており、戦績も11戦7勝というなかなかの馬。今日も穴馬として期待されている。が、その見た目は、冬毛が残り明らかに毛艶が悪い。腹も緩そうで筋肉の付きも疑問。494kの大型馬だが馬体から力強さを感じられない。これは期待外れ。
12番ビソウウエスタン。やや遅れてパドックに登場したが、どうやら暴れるトモシロヒットが邪魔をしていたようだ。毛艶は全く冴えず、刺し毛気味に冬毛も残っている。頭でっかちでコロンとコンパクトな馬格、元々お世辞にも格好いい馬とは言えなかったが、それでこの出来、しかもトップハンデ。見ていて可哀想になる。「金沢時代の後半から既に悲しかったですから・・・今となってはもう言葉もない。」とはディープさん。名古屋移籍後は6戦して、殿負け2回にブービー3回。

本馬場入場から返し馬。ヘイセイチェッカーはクビをひん曲げて入場。しかしキャンターは素軽く流した。トモシロヒットは発汗がキツく、頭を上げてダクへ。そしてボロをしながらのキャンターと、印象悪いことこの上なし。ショウリイットーはクビを下げてハミにもたれた感じで返し馬に。ケイウントップは軽く。ブラウンダンディは安部騎手が手綱を抑え気味も馬はかなり強めに駆けていく。そしてマリンレオは、この馬の常で終始リラックスして、楽に軽くキャンター。
予想。マリンレオのアタマは鉄板。考えるのは相手だけ。ラディガブライト、ヘイセイチェッカー、ブラウンダンディの3頭を買おうと思うが、買い目に強弱をつけないと元金割れを起こしそうなところ。そこで本線に抜擢したのはラディガブライト。「あまり信用しない方が・・・」との心の内の声もあったが、あの好馬体を目にするとどうしても期待してしまう。ヘイセイチェッカーはもう一丁大仕事が出来るか?に疑問で本線に推せず。ブラウンダンディは切ってもいいかと思ったがあくまで押さえ。券種は深く考えず馬単で。

レースなり
いよいよレース。距離1900m、発走地点は2コーナーを回った向こう正面入り口。
ゲートインの時、ヘイセイチェッカーが突進してゲートを飛び出てしまう。が、すんなりまた回り込んで再入。大事には至らず、ゲートオープン。
ショウリイットーが立ち後れ気味に見えたが、それ以外はほぼ横一線の発馬。大方の予想通り、トモシロヒットが外目からグンと内に切れ込んでハナに立つ。マリンレオが今日は先行策、ゴールドランプと共に次列をガッチリ。ヘイセイチェッカーがマリンレオの直後から程なく外を通ってその前へ。結果としてマリンレオはヘイセイチェッカーに直付け、びったりマークする形となる。これらを見る形でラディガブライトが続く。
そして正面スタンド前。先頭トモシロヒット、後続をやや離して単騎逃げ。2番手内にゴールドランプ、同列の外やや離れてヘイセイチェッカー。2馬身弱下がった次列の内にラディガブライト、この外にマリンレオが、相変わらずヘイセイチェッカーを直前に見る位置。ラディガのやや後ろにブラウンダンディ、今日は好位からか。以下ケイウントップ、クールショー、ビソウウエスタン、ショウリイットー、ヘイエイエクセル、ディアルレーブと続く。

1周目(37KB)
1周目のホームストレッチ
先頭トモシロヒット2番手外にヘイセイチェッカー

2周目の2コーナーを過ぎると、先頭のトモシロヒットは早くも手応えが怪しくなり出す。そして向こう流しの半ば手前あたりから、次列の3頭が、内ゴールドランプ中ヘイセイチェッカー外マリンレオの隊形でスパート。中でも強気に見えたのがヘイセイチェッカー。ライバルに先んじようという瞳jkの意志が窺われる勝負駆け。3コーナーを前に若干抜け出したかに見えた。が、外からマリンレオが余裕の手応えでビッタリと。そして三分三厘、手綱をしごかれてマリンレオが決めにかかる。
他方先団3頭の後方では・・・バックに入って以降ディガブライトの動きが鈍く、前の加速に付いていけない。三角ではブラウンダンディもスパートして押し上がるが、ラディガはそれにも遅れをとり、ブラウンの後ろから必死に押し上げようとするクールショーだかケイウントップだか(記憶曖昧)を抜くのすら手間取っている。これは圏外濃厚。
さてレースも佳境。マリンレオは4コーナーでやや外に張りつつも、満を持してヘイセイチェッカーを交わして先頭に。そして最後の直線、あとは突き放すだけ。楽走も可の体勢ではあったが、鞭も数発入り、しっかり追われて駆け抜けて、優勝のゴール。勝ち時計2分2秒4は、あのシナノリンボーのレコードにコンマ9及ばぬだけの好タイム。結果後ろを7馬身チ切って見せた。
マリンレオ(48KB)
マリンレオ、ゴールへ
今回も終いは独走
ヘイセイチェッカーvsブラウンダンディ(49KB)
ヘイセイチェッカーvsブラウンダンディの2着争い
チェッカー、ブラウンを振り切る

注目は2着争い。マリンレオには交わされるも、ヘイセイチェッカーが馬場のやや内をバテずに力走。直線に入ってブラウンダンディが外から追い込んでくる。場内からは「瞳ちゃん残せ〜!」の声援が。最後はクビ差振り切って、2着にきっちり残ってみせた。3着ブラウンダンディ。ゴールドランプが先団から残って3馬身差で4着。5着差したと思しきショウリイットー。ケイウントップは6着。ラディガブライトは7着止まり。8着ディアルレーブ、逃げたトモシロヒットは9着。クールショー10着、ヘイセイエクセル11着、ビソウウエスタンは「やっぱり」最下位。

振り返って、そしておしまい
マリンレオの勝利には、もう何も言うことはない。「ちゃんと直線追ってたやん。」とディープさんやリーダーらと確認し合ったが、強いて挙げればこれが目立った点か。次走の大一番を睨んで、敢えてきっちり終いまで走り切らせようとしたのは明白。『競馬エース』のHPにも陣営のその旨が載った。レース後ウィナでの表彰式、お客さんの掛け声は、今日の勝利への祝福と、次走タマツバキへの期待と応援がない交ぜになったもの。さながらちょっとした壮行会ムード。
ヘイセイチェッカーには感心した。「この馬強いやん。」と思わせるに足る走りだったと思う。印象的だったのは瞳騎手の、終始前々に位置取って進めようという攻めのリード。それに応えた馬も見事。「斬れる脚のない馬だからこの乗り方でいいでしょう。」との見立ても。納得。
ブラウンダンディは3着止まり。これでヘイセイチェッカーには連敗。「やっぱり今日の馬場じゃあ後ろから行ったらなかなか勝てないわ。」と環ちゃんも言及したが、好位付けのつもりでも差し競馬なってしまう、おまけにそれで捉え切れないあたりが、物足りない現状を物語っていよう。
ゴールドランプは今日は健闘の部類だろう。ショウリイットーが終い出鱈目差しで掲示板確保するのはいつものこと。ケイウントップは中団からということもあって、レースの流れの本筋に乗る局面がなく、見せ場はなし、ちょっと残念。
それにしてもラディガブライトは何だかなあ。人気背負った馬が好位付けの競馬をして、勝負所で蚊帳の外になるという、何とも格好悪い負け方。ホンマにあてにならないヤツ。そしてなかなか学習せず、何度も騙されるワシ。
マリンレオ→ヘイセイチェッカーの馬単の配当は650円。「これついたなあ。オイシすぎる。」とは本線で的中させたディープさんならずとも思うところ。

マリンレオ アアマリンレオ マリンレオ――この強さの前には、オチすら枯渇するわ。
タマツバキまで、あと21日。

2002.5.17  記
2002.5.30 訂正

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